内容説明
谷崎文学の神髄、性と愛の交響。谷崎潤一郎は「無思想の作家」と称されていた。階級闘争を標榜したプロレタリア文学が隆盛をきわめた時代も、戦時体制のもとに民族主義的な思潮が台頭した時代も、谷崎は魅惑的な女性の美しさを描くためだけに命をささげ作品を紡いだ。誰しも政治、実業、学問などで身を立てることを願った、明治という立身出世の時代にあって、なぜ谷崎は社会の変革などよりも官能の充足の方がもっと大切だという人生観を抱くようになったのか。谷崎研究の第一人者が、その人生と作品群を詳細に検証する。
目次
はじめに
1 作家の誕生(第一章 〈神童〉のゆくえ ──聖人願望と春の目覚め
第二章 〈性の解放〉へ向かって ──美的生活論からクラフト・エビングへ
第三章 〈永久機関〉の発明 ──『刺青』の基底にあるもの
第四章 痴愚礼讃の系譜 ──『痴人の愛』の方へ)
2 文豪への道(第五章 ヴァイニンガー再読 ──「タイプ」の発見
第六章 恋愛と色情 ──妻譲渡事件から『盲目物語』へ
第七章 〈松の木影〉の下 ──『春琴抄』の到達
第八章 戦中から戦後へ ──『源氏物語』現代語訳と『細雪』『少将滋幹の母』)
おわりに
主要参考文献
資料翻刻 草稿「恋愛と色情」(谷崎潤一郎)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
66
谷崎潤一郎の作品というとマゾヒズムとフェティシズムと切り離しては考えられないと思う。本書は谷崎の生涯と作品の変遷を、性を通じて読み解いた一冊。彼が読んだ心理学者の説クラフト・エビングやヴァイニンガーの説が丹念に説明されており、それが如何に彼の作品に影響を与えたかという部分が面白い。そういえば大正時代の心理学って変態性欲等が前面に出ていた印象があるな。結婚生活や関西への移住が作品に与えた影響も記しているが、自分はやはり処女作後の諸編の絢爛たる短編が隙かなあ。「少年」を読んだ時の衝撃は今も忘れられないし。2021/03/25
陰翳rising sun
11
谷崎の生涯を「性欲」で読み解く。氏の作品を読むたびに、性描写の的確さが気になっていた。この本によると、友人の杉田氏から精神病の著書について紹介されたとある。これにより学術的に正しく異常性癖を表したようだ。そして関西移住からの作風の変化について「個」から「類」へとある。谷崎の描く女性が、特定の個人から観念の永遠の女性へと変わった。春琴抄では、佐助が自ら視力を失うことで観念の世界にいる春琴と生きながらにして心まで結ばれる。目に見える世界を解脱して、永遠不変の官能へ。放置プレイで想像を膨らませるのと似ている。2020/09/20
午睡
8
これまで未発見・未収録だった書簡や作品が収められた決定版谷崎潤一郎全集の編集委員でもある筆者ならではの谷崎論。さすがに教えられるところが多い。谷崎潤一郎がマゾヒストであることは彼の読者なら容易に感得できることであるが、作家であり医師であった木下杢太郎にカストラチオン( 去勢)を懇願するほどのレベルであったことはあまり知られていないのではないか。 非常に面白いことを認めたうえで、ないものねだりを二つ。読みながらずっと序論を読んでいる気がした。本論、つまりクライマックスに欠ける。江戸川乱歩との隣接も読みたし。2021/01/07
Gen Kato
5
谷崎文学はおもしろい。でも今一つピンと来ない。長いことそう思ってきたのだけど、このごろちょっと考えが変わって来た。「マゾヒストは、実際に女の奴隷になるのではなく、さう見えるのを喜ぶのである」という「利己主義者」の谷崎文学。再読してみようと改めて思う。構想のみで書かれなかった「龕」(「立川流の僧、マゾヒスト或ひはオナニスト」「関係したあとで又その記憶でオナニをし、それが真の恋愛、且仏道の奥義なりとする」)って、読んでみたかったな(完全にどうかしてるけど!)2021/08/21
尋hiro
3
私も好きな「細雪」は、他の作品と違って、変態的な性欲とか過激な嗜好などの表現がなく「例外的な作品」であるとの解説があった。それがゆえに多くの大衆に好まれるのだろう。細雪以外の作品のそういった側面を念頭において読んでみると細雪もまた違った印象が得られるかもしれない。再読してみよう。2025/06/30
-
- 電子書籍
- 銀の途 金の唄(3)
-
- 電子書籍
- 異世界キャバクラ 第62話【単話版】 …
-
- 電子書籍
- 経済で読み解く 明治維新 ~江戸の発展…
-
- 電子書籍
- マリーマリーマリー 3 マーガレットコ…
-
- 電子書籍
- ロボットのモモちゃん ヤングジャンプコ…