内容説明
1990年、トルコ。イスタンブルの路地裏にあるごみ箱の中で、娼婦が息絶えようとしていた。死後も続く10分38秒間の意識の中で、彼女は、5人の友人とひとりの最愛の人と過ごした日々を思い出す。居場所のない街の片隅でみつけた、汚れなき瞬間を映し出した物語
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
114
1990年、イスタンブールのもの寂しい場所で永い眠りに就こうとしている一人の娼婦・レイラの生涯を追った物語。それは20世紀のトルコが見せた時代の揺らぎの中を藻掻きながらも泳ぎ続けた女性の姿でもあった。彼女にとって忘れられない記憶、その多くは痛みを押し付けられた出来事ばかり。旧来の観念が支配する故郷での家族の歪んだ愛情、親族の非道な仕打ち、大都市での波乱な暮らし。それでも彼女は徐々に揺るぎない気高さを備えていく。そこがいい。その気高さに救われた友人らにより彼女が本当の解き放たれた時の言葉がすっと胸に入った。2020/11/25
アン
113
イスタンブルの路地裏で心臓の鼓動が止まり、意識が薄れゆく10分38秒間に味や香りと共に回想される娼婦レイラの一生。抑圧され歪んだ生い立ち、恥辱と尊厳、癒えない傷。トルコでの歴史的事件や雑多な街並みを背景に、彼女に訪れる出来事の数々が立ち上り心が揺さぶられます。愛する人や困難な境遇にある5人の友達との固い絆、「寄る辺なき者」たちの居場所、支え合いと連帯。死を見つめた物語ですが、この世界の片隅にある尊いものを失わず生きていく強さを教えてくれるよう。愛と自由を希求したレイラ、青く煌めく海で安らかに、微笑んで。 2021/04/08
しいたけ
110
脳は死んだ後も活動を続け、10分38秒続いていたという研究結果があるという。「心が全人生を、やかんの湯が沸く程度の時間に凝縮することは果たして可能なのか?」との検屍官の思い。検屍するのは、殺され金属製のゴミ容器に捨てられていた売春婦、テキーラ・レイラ。イスタンブルを舞台とした彼女の、そして彼女の大切な仲間の人生は、湯が沸く時間などと言い表すことに憤慨するほど重い歳月だった。読み終わったページが映画のシーンのように漂っている。少女を守りたいのに守れなかった、思いつめたあの日の少年の眼差しが頭から離れない。2021/07/01
榊原 香織
107
良かったです。 イスタンブール路地裏のゴミ箱の中で殺された娼婦の脳波が止まるまでの記憶 て、読むの腰が引けたけど。 匂いで記憶が喚起されるてプルースト風。 ハルヴァ(米原真理さんによると世界一美味しいお菓子)作りが出てくるとこがやはりトルコ2020/12/02
どんぐり
103
心臓が止まってから脳の活動が停止するまでの、すべての記憶が溶けて厚い霧が覆う10分38秒。路地裏のゴミ容器に遺棄され死体となった女が、トルコ東部にあるヴァンの町で過ごした少女時代からイスタンブルで娼婦となって殺されるまでを回想する。レイラの回想に登場するのはトランスジェンダーのナラン、幼馴染みのシナン、小人症の占い師ザイナブ、夫の暴力から逃げてきたナイトクラブの歌手ヒュメイラ、ソマリア人娼婦のジャメーラの5人。→2022/01/22