内容説明
先生はごく温かい柔らかい心持ちを持った、いわばあの作物の中の坊ちゃんであられたのである――自他共に認める「別格の弟子」が、教師と生徒としての第五高等学校での出会いから、その素顔と作品、周辺に集う人々までを親愛と哀惜の情をこめて語る。文庫オリジナル
〈座談〉小宮豊隆・松根東洋城・寺田寅彦
〈巻末エッセイ〉中谷宇吉郎
(目次より)
Ⅰ 先生の追憶
夏目先生/蛙の鳴声/夏目先生の自然観/「柿の種」より/夏目漱石先生の追憶/埋もれた漱石伝記資料/「自由画稿」より/『普及版漱石全集』内容見本推薦文/『決定版漱石全集』内容見本推薦文/日記より三句/思ひ出るまゝ
Ⅱ 先生に集う人たち
根岸庵を訪う記/初めて正岡さんに会った時/仰臥漫録/子規自筆の根岸地図/子規の追憶/『子規全集』/明治三十二年頃/芥川竜之介君/高浜さんと私/『藪柑子集』自序/『藪柑子集』執筆当時の追憶/『漱石襍記』について/津田青楓君の画と南画の芸術的価値
Ⅲ 先生と俳諧
夏目先生の俳句と漢詩/天文と俳句/涼味数題/思出草/俳諧瑣談/こころもち/〈座談〉小宮豊隆・松根東洋城・寺田寅彦 漱石先生俤草/『漱石俳句研究』より
〈巻末エッセイ〉中谷宇吉郎 寒月の「首縊りの力学」その他/冬彦夜話
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
saga
46
漱石の門下生と言われる人々の中でも、早くから漱石に師事した寺田寅彦。物理学者にして文学・俳諧を理解する寺田氏は余程漱石先生が好きだったんだな~。漱石が亡くなった直後の記者の聞き書きによる記事から始まる本書。根岸庵(正岡子規)訪問記、津田清楓へのエール、そして俳諧を機縁とした漱石の俳句を松根東洋城、小宮豊隆と論ずる座談と、読み応え満載。解説に相当する「寺田寅彦先生」「冬彦夜話」は、奇しくも寺田寅彦没後に書かれているのも感慨深い。2024/12/15
Kiyoshi Utsugi
37
物理学者の寺田寅彦は、漱石の別格の弟子とも言われる人。 「吾輩は猫である」の中に出てくる水島寒月のモデルとも言われる人。 その寺田寅彦が見た夏目漱石。それ以外に正岡子規とかも登場します。漱石が亡くなってから、漱石を偲ぶという形で書かれています。 中でも面白かったのは、水島寒月の「首縊りの力学」に関する話。これは、寺田寅彦が「フィロソフィカルマガジン」という英国の物理雑誌に掲載されていた論文を漱石に紹介したところ、面白いと言って取り上げたとのこと。寺田寅彦自身が研究していたわけではないみたいです。2023/05/12
くるみみ
16
物理学者であり随筆家でもあった寺田寅彦が、師である夏目漱石の思い出を語った随筆等を集めた1冊。寺田寅彦さんは先に「柿の種」で知り、その後に漱石の猫を読んだので完全にイメージが寒月くんのまま本書を読み始めたけれど、それを払拭することもなく寒月くんのままで読み終えた。寺田氏が学生の頃を振り返っての随筆が多いので文章の端々にチャーミングともいえるような印象があり、相まって漱石の和やかな1面を感じられ、微笑ましかった。俳句に関しての座談会のページもあり、寺田氏はめちゃ漱石先生推しだった笑2021/11/28
猫丸
13
たいていの事物・事象に対して堪え性というものがなく、依存症のデパートと自認するワタクシでありますが、中でも漱石依存症は病膏肓に入ること久しいのです。木曜会に参集した男たちも皆同じ。先生が無防備なものだから、つい自分を曝け出して先生の赦しを得たくなる。共依存と言わば言え。世間とは別乾坤で気炎を上げる太平の逸民なのだからお許し願いたい。寺田寅彦、その大将格である。旧制高校のときに心を射抜かれてから、一生にわたり先生の呪縛から脱することはなかった。年齢は十ほどしか離れていないのに、先生にはとても敵わない。2021/11/13
naotan
11
好きな人には宝物のような一冊。俳句の話と猫にまつわるエピソードが面白かった。2021/02/09