内容説明
鋭利で辛辣、政治一辺倒――
そんなオーウェルのイメージは
本書を読めば心地よく裏切られる
「人間はぬくもりと、交際と、余暇と、
慰安と、安全を必要とするのである」
自然に親しむ心を、困窮生活の悲哀を、
暖炉の火やイギリス的な食べ物、
失われゆく庶民的なことごとへの愛着を記して、
作家の意外な素顔を映す上質の随筆集
文庫化に当たり「『動物農場』ウクライナ版への序文」を収録
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
127
「動物農場」「1984年」の作品や時評で有名なジョージ・オーウェルのエッセイ集です。この作者にしては珍しいものだと感じました。食べ物やビールあるいは紅茶などについての話や編集者秘書に対しての手紙などが書かれています。特に食べものはイギリス人の愛国心が現れているような感じで笑ってしまいました。オーウェルにこのようなエッセイがあるとは思いませんでした。肩の力が抜けていますね。2023/08/15
藤月はな(灯れ松明の火)
78
鋭い社会風刺を得意としたジャーナリスト・作家のジョージ・オーウェル氏。しかし、エッセイはユーモラス且つ親しい人々への優しい眼差しに満ちています。特に濃い紅茶へ作る事への強いこだわりについての語りは熱い!読書家さんには読書のコスパの良さを説いたエッセーが一番、面白く、読めるでしょう。それでも本が高いとぼやくのが本好きあるあるで可笑しい。ジュラ島への書簡は彼の愛情深さと紅茶好きが垣間見えます。それにしても皿洗いを一番、面倒くさい家事とぼやき、家事の全自動化を望む作者が食器洗浄機を見たらどう思うかしら?2021/03/06
れみ
75
イギリス人作家ジョージ・オーウェルのエッセイ集。「動物農場」を書いた人ということと、タイトルに惹かれて手に取ったもの。交友のあった人の名前、食や生活全般に関する物の名前が見聞きし慣れないものもあって読むのに苦労した部分もあったけど、独特のこだわりや、諸表のなかで知るこの時代に話題になった本や生活観など興味深いところもあった。2021/01/23
k5
72
『1984年』はかつて涙した大切な本ですが、このエッセイ集も良い本です。何というか、視点がすごく自分と近しいところにある、と思わせてくれるのがこの作家の特徴だと思います。それは紅茶の淹れかたに関するこだわりや、アーセナルとディナモの試合と言ったような、現代に通じるテーマが扱われているためもあるのだけれど、やはり眼差しを丁寧に書くこの作家の特徴によるものでしょう。なんか上手く表現できないのですが、「見る」ということが特別な感じのする本なのです。2021/04/16
踊る猫
42
本人がどこまで自覚していたのかわからないが、これは実に「反時代的」なエッセイ集と映る。当時のテクノロジーの進歩の帰結としてあった原爆に(反戦平和の視点から「も」)断固として「NO」を突きつけ、庶民的な古き良き付き合いや堅実な暮らし、日々の聖性を大事にする。それはいいのだが「いまの目」で読むとところどころに彼の認識も垣間見える(たとえば、後進国のスポーツやナショナリズムは成熟してなかったと論じるあたりは「無自覚に」彼が先進国の立場に立っていたある種の驕りが見えないか。酷だろうか)。それを割り引いても唸らせる2024/08/11