内容説明
弱さを肯定するところから、生まれるもの――
強くあるために勇気を振り絞ろうとする。
だが、そうやって強がろうとしても、勇気は湧いてこない。
勇気は自分の「弱さ」と向き合いつつ、大切な人のことを思ったとき、どこかから湧出してくる――。
弱さを克服し、強くなることが善とされてきたが、それは本当だろうか?
自分と他者の弱さを見つめ、受け入れることから、信頼やつながりを育む真の強さが生まれるのではないか?
現代に鋭い問いを投げかけ続ける批評家が、
危機の時代を生き抜くための叡智を、やさしく語る。
【目次】
はじめに
1
・天耳(てんに)
・弱い自分
・おそれと向き合う
・弱さに学ぶ
・見えないものの復興
・賢者と「時」の感覚
・無常と情愛
2
・言葉のともしび
・遅れてきた新学期
・「弱さ」において「つながる」社会
・弱さの彼方にある光――敬意と愛と正義
・闇を照らす言葉
3
・いのちを守る
・いのちと経済をつなぐもの
・愛に渇く
・言葉に渇く
・言葉の護符
・仕事
おわりに
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
114
若松さんの最近の著作です。コロナの時代にある意味大きな力というわけではないのですが、勇気を与えてくれる言葉が書かれています。はなしことばなのでわかりやすさが身に染みてきます。もともとキリスト教の素養がおありになるのですが嫌味にならずにそれをうまく料理してくれています。2021/05/03
trazom
93
若松さんは、とても尊敬する随筆家である。弱さに寄り添う優しさや、言葉の力への堅い信念に、どれほど励まされてきたかしれない。でも、コロナ禍の人々に向けられた本書の文章の数々が、今日は何故だか心に刺さらない。本書にも引用されるメルケル首相やクオモ知事やフランチェスコ教皇のメッセージには、自身の弱さを自覚した上で、社会に働きかけようとするリーダーたちの強い意思が示されている。人間の無力を嫌というほど思い知った今、「弱さがちから」だという慰めを素直に受け入れられなくなっている自分がいる。これは危ない徴候かも…。2020/11/23
おさむ
36
著者は、弱さから生まれる強さが本物の強さだと説く。キリスト教の影響の色濃い主張は頷く点が多かった。たとえば、私たちが互いに内なる弱い人の姿で誰かに出会う。そこには信頼、友愛、慰めがある。時には孤立から救い出された心地になる。弱さによって実現したつながりは、眠っている可能性や生きる力を、呼び覚ますこともある。近くにいる人と「さわる」「まじわる」「むれる」のではなく、離れた場所にいる人と「ふれる」「つながる」「つどう」を実現するのがコロナ後の世界で、そのとき、頼みになるのが言葉だ。うーむ、味わい深い。2021/01/09
あまね
34
良書です。コロナ禍において書かれたものであるせいか、初めから終わりまで心に染みる言葉の数々に癒され静かな気持ちになることができました。これまで『弱いこと』や『助けられること』が知らず知らずのうちに恥ずかしいこととなってしまっていた文化。自己責任という言葉が無意識のうちに自己を絡め取り『弱さ』を出せない世の中になっていたことに思いを馳せました。コロナ禍は大変な世界ではありますが、見たかったものだけ見る世界ではなく見えないフリをしていたものに気づき寄り添う世界を提示しているのかもしれないと思いました。2021/01/07
くくの
29
コロナ禍の今だからこそ、問い直すべき価値観と学ぶべきものがある。「弱い立場」になったからこそ、見えるものがある。強くあろうとすれば、拳を握らざるをえない。手を開いて、弱さを認めれば、その手はいつか誰かとつながるだろう。私は自分に問い直した。弱さに寄り添い、手を開いているだろうか?誰かの手を取り、その弱さに寄り添うことができるだろうか?それはまだ分からない。今まで弱さをひた隠しにして、周りが言う「強くなれ」に従って走ってきたのだから。誰かの弱さに寄り添える人になりたい、そう思える一冊だった。2021/02/05