内容説明
沈黙を抱える者たちの視線が交差し、気高い光を放つ。胸に刻まれたその残像が、今も消えない。 ――小川洋子さん推薦!
戦争で夫を亡くし、足のケアサロンを営むペイジ。
斜向かいに住む大学教師ボビーの密かな楽しみは、ペイジの生活の一部始終を観察することだった。
ある日ボビーは、意を決し初めて店を訪れる。
足を洗ってもらっているあいだに、ひとり語りを始め、忘れ得ぬ事故のことを打ち明けるボビー。
悲惨な体験を通して、孤独な二人の心は結びつくのだが……(「初心」)。
79歳の作家が贈る、全10篇の濃密な小説世界。
「世界最高の短編作家」(ロンドン・タイムス)
「現存する最高のアメリカ作家による、最高傑作集」(ボストン・グローブ紙)
――なんとまあ大袈裟な、と思う方は、是非とも本書を読んで確認していただきたい(古屋美登里)
【目次】
・初心
・夢の子どもたち
・お城四号
・石
・従妹のジェイミー
・妖精パック
・打算
・帽子の手品
・幸福の子孫
・蜜のように甘く
・訳者あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
160
静かにかなしみやよろこびが積み重なっていく。それは色づいた秋の葉が音も立てず地を埋めて森をつくるように。遠い日の、それから何度もふと思い返すであろう決定的なその日たち。その時はその日がそういう日だということは思いもよらない。けれど決定的なその思い出たちが。 人生というのはこういうものかもしれない。人生というものを読んでいた気がする。ずっと読んでいたかった。とてもよかった。たまにこういう本に出逢えるのだから、やっぱり読書がたまらなく好きだ。2020/10/27
アキ
84
10篇の短編集。「初心」tender foot、「お城四号」castle 4、「従姉妹のジェイミー」her causin Jamie、「帽子の手品」hat trick、「蜜のように甘く」honeydew、が印象に残る。どの作品も登場人物たちは、少しだけ重なり合う人生を生きて、それぞれに思いを馳せる。死と生者の悲嘆、思いがけない結婚、情事の後の死、娘たちの結婚、寛容と自律。すべてを語らず、その存在を仄かに匂わせて、そのまま終える余韻が心憎いほど。2021/05/08
藤月はな(灯れ松明の火)
78
決して派手ではない日常を捉えながらしみじみと心に染み渡る短編集。「初心」の一種の共犯意識の後にある事実とその為に超えられることのない断絶を思い知らされ、途方に暮れる。「従妹のジェイミー」も尊敬していた恩師への追慕と運がいい従妹への複雑な心情は溶け合う。同時にふとした拍子に思い出す程、永く、抱き続ける人間の奥深さに瞠目。そして私は「幸福の子孫」が一番、好きです。人は「私は最も幸福だ」と思える瞬間に出会っている。それが些細で何気ない事でもその感情は強く、焼き付き、それがあるから投げ出さずに生きていけられる2020/08/20
ケロリーヌ@ベルばら同盟
72
この余韻を何に例えれば良いのだろう。原題の『Honeydew-荒地の甘露-マナ-』だろうか。簡素にして豊か。歳月と生き物の営み、そして愛。まろやかな甘さと幾許かの苦さを内包する珠玉の10篇。琥珀色の雫を惜しみつつ舌の上で溶かし、心に沁みわたらせてなお物語の世界から去り難い。今少し、美しい黄昏の寂しさの中に漂っていたい。2021/02/12
pohcho
61
小川洋子さんご推薦ということで読んだが、小川さんの作品を思わせるようで、時々江國さんも入っている気がするし、 つまりはとても好みの短編集だった。20頁ほどの短い話ばかりだが、孤独で静かで、独特なんだけどとても身近に感じられ、いくつもの情景が奇妙に心に残った。「蜜のように甘く」は情事のことかと思ったら、カイガラムシの排泄物のこと。甘露と呼ばれているそうな。2020/07/08




