内容説明
歴代直木賞受賞作中の白眉である(浅田次郎『コレクション戦争と文学11 軍隊と人間』解説より)
敵前逃亡・奔敵、従軍免脱、司令官逃避、敵前党与逃亡、上官殺害。陸軍刑法上、死刑と定められた罪により、戦地で裁かれ処刑された兵士たち。戦争の理不尽を描いた直木賞受賞作に著者の自作再読エッセイを収録した増補版。
〈解説〉五味川純平
〈巻末エッセイ〉川村湊
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜長月🌙新潮部
65
冤罪による死刑。これほど報われない人生はありません。戦時下の日本軍で敵前逃亡や上官殺害などの冤罪で殺された記録です。ノンフィクションではありませんがほぼ同様の事が数限りなく行われていたと思われます。軍法会議や軍事裁判などは名ばかりで上官の命令で簡単に死刑は行われました。忘れてはならない戦争をある特殊な視点から見ていますが重く心に残ります。2022/07/27
Cinejazz
18
敵前逃亡、従軍免脱、司令官逃避、敵前逃亡、上官殺害の罪により、日本帝国陸軍刑法の定めに従い、戦地で裁かれ処刑された下士官兵たち。その事件の隠された真相と戦争の理不尽さについて、東京地検勤務中に恩赦事務に携わり、軍事裁判の記録に接して知った<結城昌治>氏が、軍隊の非情なる暗部を描いて、直木賞を受賞した慟哭の5編。〝軍法会議とか裁判とかいう雰囲気ではありませんが、〇〇軍曹たちは××小隊長の横暴ぶりを非難し、大隊長た中隊長に訴えたことも話しました...懲罰のためドラム缶にぶち込まれて焼け死んだ兵隊や、炎天下に↓2025/03/07
ブラックジャケット
16
旧日本軍の徴兵した兵士に対する残酷な仕打ちは言語道断で、捕虜になるくらいなら死ね、という教育がそれを示している。赤紙一枚で苛酷な戦地に飛ばされ、まともでいることはできない。他者に対しても命の尊厳などはない。著者は戦後25年を前に、各地で軍法違反に問われた事件を掘り起こしていく。五つの短編小説にまとめたが、ノンフィクションといってもいい。関係者にインタビューし、疑問点をただしていく中で、敵前逃亡、上官殺害なども日本軍の崩壊過程での狂気を明らかにしていく。特に人肉食などの極限の犯罪は、改めて慄然とさせる。 2022/04/19
tsune105
8
覚悟の戦死ではなく、戦犯となり死刑となった人たちの経緯をたどる短編集。 何度か挫折しそうになった戦争小説。限りなくノンフィクションと言っても間違いない太平洋戦争の「理不尽」が満載。 総力戦の負け戦には、本作で描かれた「理不尽」も待ち受けることを全日本人は肝に銘じるべき。 構成もさることながら「本作を若者たちに読んで欲しい」という著者のあとがきも的確であり秀逸でもある。2021/11/09
おい
3
ノンフィクションっぽいフィクション。こんな直木賞作品もあったんだ。楽しければいいといった作品とは違った読み応えある作品であり、またこうした作品が直木賞を受賞してほしい。 ★★★2024/02/13