内容説明
「社会の役に立ちたいと思いました」
2016年7月、19人の障害者を殺した植松聖。
全16回の公判の果てに2020年3月、死刑が確定―――。
彼の目から見えていたこの「世界」とは?
残酷な「本音」が「建前」を打ち破り、
「命は大切だ」というような「正論」を口にする者が
「現実を何もわかっていない」と嘲笑される光景があちこちにある。
そんなこの国に溢れる「生産性」「迷惑」「1人で死ね」という言葉。(中略)
彼の悪意はどのように熟成されていったのだろう。
「死刑になりたかった」のではない。「誰でもよかった」のでもない。
彼は衆院議長への手紙で「日本国と世界平和のために」とまで書いている。
――「はじめに」より
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちえ
44
「人の役に立ちたい」思いを持っていた青年。命に「生きる意味がある/ない」と線引きをし事件を起こした彼は、今、自分自身が確定死刑囚という、かつて自分が「生きる意味がない」と仕分けた存在として東京拘置所にいる。やまゆり園で「一日中車いすに縛り付けられていた」元入所者が、事件をきっかけに移った施設で資源回収の仕事ができるようになったという話には、自分が関わる高齢者介護の現状も頭をよぎる。裁判傍聴記より作者と渡辺一史氏との対談に日本の社会福祉の歴史と現状、「生産性」で人を量る社会の歪みを ↓ 続く2021/07/02
くるぶしふくらはぎ
37
植松被告は何故事件を起こしたのかずっと気になっていた。本書は、時々購入している雑誌ビッグイシューにコラムを掲載している雨宮氏が書いた物だったので思わず手に取った。そしてわからないまま読了。邪悪なサイコパスとかけ離れた印象、ドロドロとした闇のないパサツキ感、普通の許容範囲内のズレなのか。気になったのは若い人達に蔓延する「経営者マインドの搭載」。もう随分と職場の労働組合加入率が下がり続けてるのだけど、労働者という意識が若い人達には無いのか、労働者なのに労働者であることを否定し蔑んでいるのか、なんなんだろうなあ2021/09/11
イトノコ
33
図書館本。相模原障害者殺傷事件・植松被告の裁判傍聴記。/冒頭の、「優生思想でも、なんでもない。単純な嫉妬ですよ」という言葉がストンと腑に落ちた。自己評価が低いようでいて自尊心・承認欲求が異常に高いだろう彼が施設で働くうちに「この俺がこんなに苦労しているのに…」と思うのはありそうなことだ。そして裁判の様子を読むにつけ感じるのは、思った以上に言うことが支離滅裂(彼の作ったという「新日本秩序」とやらなど)な事と、コミュニケーション能力に何らかの欠陥がありそうという事。→コメントに続く2020/10/16
テツ
24
相模原のやまゆり園で起きた大量殺人事件の裁判傍聴記。どんな思想をもってもいい。どんな人生観でも価値観でもいいし、そこから他人に対するどんな評価基準を創り上げでもいい。ただそれは自らの内側だけで完結させておかなければならないし、その独りよがりな価値観で他者に対する物理的なジャッジを下す権利など誰にもない。犯人の思想信条なんてどうでもいいんだ。それを正す権利も他者であるぼくたちにはない。問題なのはそれを外の世界に向けてしまったことだけ。他者の思想信条をジャッジしてしまうのはこの事件の犯人である彼と同じだ。2020/09/22
袖崎いたる
14
起業関連の書籍を読もうと思ったなかにこの一冊を入れるオレね(笑) いやでも、起業やら経営やらって考えてる人と無関連じゃないのよ。だってそういうマインドをインストールした結果、この事件の犯人は障害者を生産性がないとか考えて殺害しちゃったんだもん。犯人の「役に立ちたい」って指向性は強くてねぇ、それはたとえば記者から「最後に何か言いたいことはありますか?」と聞かれて「餃子に大葉を入れると美味しいですよ」とか言ったりするところなんかにも、そういうサービス精神が見えると思うのよね。知れば知るほど無関連じゃないわ…。2020/11/08