内容説明
第163回芥川賞候補作。
一緒に、塔を探しに行かないか?
生き迷う男。謎を残して死んだ女。…大学教師の私に届いた、学生時代にバイトをしていた映画館からの招待状。映写室の壁に貼られたままの写真に、20年前の記憶がよみがえる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
208
第163回芥川龍之介賞受賞作・候補作第三弾(3/5)、岡本 学、初読です。本書は、フィルムシネマ・ノスタルジー・ラブ・ストーリーの佳作でした。雰囲気は嫌いではないですが、本作には芥川賞受賞する程の新しさやパワーは感じられませんでした。 2020/08/23
buchipanda3
99
物語は人生に行き詰まりを感じている中年の大学の先生が主人公で、学生時代にバイト先の名画座で知り合った女性ミスミとの思い出が語られる。その気恥ずかしさ一杯の姿は案外嫌いじゃない。相手の変わったクセのある女性も面白い。さらに彼女を通して見えていた彼女の母親の存在も気になった。タイトルといい、柴門さんの漫画が頭に浮かんでもいた。やがて物語は様相を変えてミステリのように。失ったものを確認せずにはおられない衝動のようなものに何かしら共感。あの結び付け方は強引かもだが、物語を主人公と並走した自分にはいいものと感じた。2020/07/09
fwhd8325
80
芥川賞は、受賞した作品も候補作品にも、何か対峙する気持ちのようなものがどこかになります。しかし、この作品は、これまで読んできた芥川賞関連の作品にはない、自然と受け入れる気持ちになりました。私自身、映写ではないけれど、映画館でアルバイトをしていた経験とそこで出会った、仲間たちとの思い出が、そんな気持ちにさせてくれたのかもしれません。大人になって、そんな青臭いなんて感想もあるかもしれないけれど、とても美しいと感じました。読後の清々しさ、そんな思いを共感したい。2020/10/02
keroppi
75
#NetGalley 芥川賞候補作。名画座の映写技師のバイトをしていたという設定から引き込まれてしまう。映写機の葬式に呼ばれた主人公は、バイト当時に出会った女性に思いを巡らし、その女性が持っていた鉄塔の写真の謎を追う。後半は、まるでミステリーのようだが、女性の母やその周りの人物の生き様死に様が次第に明らかになって、胸を打つ。「タンポポ」「誘拐報道」等の映画の絡め方もうまい。これ、映画になったら良さそうだなと思う。2020/07/22
Maki
27
ただ一切は過ぎていきます━。すべてがすり抜けていったあとに男はがらんどうになった。悲しみはない。衝突━。ふいに記憶の欠片が集まって像を結ぶ。浮かび上がったアルファベットの文字。女は0の集合だった。伝達━。ただ、君が、生きて、存在していた。それだけでよかった。それだけで励まされた。すり抜けていったものたちの記憶の欠片を集めることも、傷んだフィルムを削ることも、悲しみの涙が出なくなったことも、ただ、私が、いま、ここに、生きて、存在しているからだ。四十を過ぎても。 2020/10/15