内容説明
小説家の織部妙は順調にキャリアを積む一方、どこか退屈さも感じていた。そんなある日、“美人作家”として話題の新人、橋本さなぎの処女作に衝撃を受ける。しかし、文学賞のパーティで対面した橋本の完璧すぎる受け答えに、なぜか幻滅してしまう。織部の興味を惹いたのは、橋本の秘書である初芝祐という女性だった。初芝への気持ちを持て余す織部は、やがて「橋本さなぎ」の存在に違和感を抱くようになる。その小さな疑惑は開けてはならない、女同士の満たされぬ欲望の渦への入り口だった……。「第13回エキナカ書店大賞」受賞作家の最新作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
紅はこべ
210
“いつも、わたしが誰かを本当に愛しはじめるのは、すべてが手遅れになってからなのだ” これが一番ズキンときた。 人の良い主人公が、自分が一番大事な二人に振り回された印象。2021/01/31
bunmei
193
トランスジェンダーという重い言葉よりは、本作はビアンというオシャレな言葉で綴られる女同士の恋愛模様。女性目線でのデザイヤーやシンパシーをリアルに描いている。ビアンである人気女流作家と新人の女流作家、そして、その秘書も含めた3人が織りなす欲望の駆け引きの中で、マイノリティーな人の生き方をも模索している。また、作家の作品を巡る秘密も絡んでくるミステリーの装いも楽しめる。蛹の殻を破って羽化する女性は、美しい蝶なのか、それとも蛾なのか?女性の揺れ動く感情や思惑の先にあるものに、ゾワゾワ感も漂ってくる。 2020/11/20
のぶ
188
自分は近藤さんの本をすべて読んでいる訳ではないが、本作は今まで読んだ作品とは違った香りが漂っていた。本作には主だった人物が3人しか登場しない。新人作家の橋本さなぎ=速水咲子、その秘書の初芝祐、キャリアのある小説家の織部妙。織部はレズビアンの嗜好がある。この事は前半部では物語にはあまり影響しない。三人が交流を続けるうちに織部は橋本さなぎの作家としてのある秘密に気が付く。前半は女性同士の交流を描いていたが、後半はヒリヒリするようなサスペンスに変わっていった。初めてのジャンルの作品だが、実に読ませた。2020/07/09
とろとろ
181
伊坂幸太郎じゃないけれど、①先入観を持たずに読むこと。②その世界観に出来るだけどっぷりと浸かること。③読後の余韻が長く残ること。で、これは③まで達成出来たので、小説としては面白かった。しかし、③の余韻が、知らない誰かから突然電話が掛かってきそうな、ドアの前に死んだはずの人が立っていそうな、何かゾワゾワするような嫌な感覚が長く続いたので減点。知らない単語が幾つか。ビアンは何となく判ったが、テヘロって?。ノンケも同性愛者から見た異性愛者のこと?。よく分からないな。こういう題材は関心が無い世界なので…。2020/08/21
雅
180
決していい気分になれる訳では無いけれど、途中でやめる事の出来ない作品だった。自立した大人達の深層心理に惹きつけられた2020/09/21