内容説明
14歳の少年は、何を見たのか。
少年の体験を通して、すさまじい沖縄戦の実相をつぶさに描いた長篇小説。
「郷土を渡すな。全員死ぬのだ」
太平洋戦争末期、沖縄戦の直前、中学生にガリ版ずりの招集令状が出された。小柄な14歳の比嘉真一は、だぶだぶの軍服の袖口を折って、ズボンの裾にゲートルを巻き付け、陸軍二等兵として絶望的な祖国の防衛線に参加する。
実在の人物の体験を、ことこまかに聞きとり、特異な事実をそっくりそのまま写し取った外面的リアリズムが、読む者の胸を強く打つ。
1991年に刊行された文庫本の新装版。元本は、累計102000部のロングセラー。
解説・森史朗
※この電子書籍は、1911年11月に文春文庫より刊行された文庫の新装版を底本としています。単行本は1982年6月に筑摩書房より「陸軍二等兵 比嘉真一」として刊行されました。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜長月🌙@5/19文学フリマQ38
68
太平洋戦争で唯一国土内の戦争となった沖縄。米軍上陸に当たって沖縄の中学生は14歳にして軍人にさせられます。陸軍二等兵となった真一が主人公です。いつの間にか相手陣地内に取り残され味方の戦線に戻ろうとするとき、死の恐怖におびえながら敵陣から逃げ出します。命からがらたどり着いたゴールとは日本兵として見事に死ぬことでしかないのに。2021/06/03
ともくん
61
当たり前のように、国のために死んでいく者たち。 そんな嘘のような時代が、日本にも確かにあった。 考えられないという言葉しか出てこない。 本書は、戦争の凄まじさを如実に物語っている。 2020/09/09
いっせい
59
沖縄戦を14歳の少年兵の目を通して描いた作品。自然死ではなく、国に身を捧げて敵との戦いの渦中で死んでいく事を美徳とする時代。主人公は、遺体運搬などの後方支援活動を命じられ、戦いの前線に出る事ができず、“理想の死”を遂げられるのか、苦悶する。作品中、絶え間無く続く死、死体、蛆虫(うじむし)の描写には思わず目を背けたくなる。地獄絵のような世界。これが今やあの美しい沖縄で起きた史実とは思えず、平和ボケした私は夢物語を読んでいるかのような錯覚に囚われる。目を背けたくなる史実。でも、背けてはいけない史実。本屋で→2020/11/07
雪
51
まず表紙のぶかぶかの軍服を着た少年の姿に心を揺さぶられた。こんな中学生の子どもまでが兵として戦わねばならなかった沖縄戦。じりじりと南方に追いやられていく様子が14歳の比嘉真一の目線で克明に描かれる。凄惨な描写が続き、読み進めるのが辛かった。自分の子どもと同年代の少年少女が、祖国のために自らの命を懸けて戦っていたという事実に愕然とする。2020/08/26
Shoji
50
絶句。感想はただそれだけだ。沖縄戦に招集された少年兵は「鉄血勤皇隊」と称する14歳から16歳の子どもである。主人公の真一は、声変わりもしていなければ体格も小さい。任務は前線への食糧運搬と後方への負傷兵移送である。圧巻は、累々と続く死体に隠れながら前線に戻ろうとする場面、そして沖縄が占領された後の場面だ。絶句した。国と国の外交になぜ人殺しをするのか。今とは国体が違う、そんなことは知っている。今もって、全く釈然としない。国に殉じた少年たちがいて今の平和がある。合掌2020/07/24