内容説明
恋も愛も裏切りも、すべてが詰まっていた――。
井上荒野が昭和の歌謡曲をモチーフに書いた短編集。
病院で出会った男と女の行き場のない愛(「時の過ぎゆくままに」)、
カルト宗教の男を愛してしまった女の悲劇(「あなたならどうする」)、
冷酷非情に女を乗り換える男の理屈(「うそ」)。
他に「東京砂漠」「ジョニィへの伝言」など昭和歌謡曲の詞にインスパイアされ生まれた9つの物語。
解説・江國香織
※この電子書籍は2017年6月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さてさて
152
『ふたりきりであることを幸福だと思えたのは最初の頃だけだった。そのうちそれは圧倒的な寂しさになり、最終的には恐怖になった』。”昭和歌謡”の歌詞の奥深さに驚くこの作品。そこには『自分自身がごく薄い殻の卵になって、不安定な高い台の上に置かれているようでもあった』など美しい比喩表現が作り出す独特な世界観の物語が描かれていました。”昭和歌謡”を知らなくても冒頭の歌詞の引用で世界観が絶妙に伝わってくるのを感じるこの作品。読後、登場した昭和歌謡の数々を聴いてみたくなった、とても興味深いコンセプトの作品だと思いました。2022/10/31
りつこ
49
昭和歌謡のタイトルがついた短編集。冒頭に歌詞が載せられているんだけど、知ってる曲は懐かしく、知らない曲は「え?ほんとにこんな歌詞だったの?(凄い歌詞だけど大丈夫?)」と驚く。人生の岐路に立たされた時、逃げ込むようにして恋愛や性愛に走る男女。次から次へと隙のある女性の生活に入り込みぽいっと捨てる男。恋愛が生きていく上の単なるスパイスの人もいれば、「運命の出会い」と思い全てを捨てて飛び込んでしまう人もいる。愚かよのう…と思いながらも何故か嫌いになれない。面白かった。2020/10/03
エドワード
44
私が子供だった昭和40年代、アニメ主題歌と同じくらい歌謡曲を聞いていた。テレビから、商店街から、歌謡曲が聞こえた。浴びるように聞いた歌の記憶は今も鮮烈だ。「時の過ぎゆくままに この身をまかせ 男と女が漂いながら 堕ちて行くのも幸せだよと 二人冷たい身体合わせる」「折れた煙草の吸殻で あなたの嘘が解るのよ」わかっていようといまいと、子供も大人の歌を歌っていた。子供にはジブリかディズニー、パプリカばかり聞かせる今とは違う。井上荒野さんが繰り広げる、男と女の袋小路、歌謡曲の哀愁を見事に表していて、実に懐かしい。2020/07/25
みっちゃんondrums
30
久しぶりの荒野ワールド。全曲1970年代かな、昭和歌謡曲のタイトルがついた短編集。タイトルとサビしか知らない曲もあるが、小説として面白いから、問題なし。歌詞にちなんで、男と女のまったく陽気じゃない話ばかり。現実世界でのほうが、みんなもっと楽しく恋愛してるだろうに。ま、昭和歌謡の世界だからね、鬱鬱と、ドロッとした印象。しかし、サラッと読ませるのが、荒野さんのテクなのか。女好きのモテ男の心情が学べるなあ、今更ながら。そして、危なっかしくてイラっとする女性の登場人物。2020/09/08
ピロ麻呂
27
昭和の歌謡曲らしく、男に振り回され、ひたすら待つ女…っていうシチュエーションが多いかな。ひとつひとつのストーリーが短くて、もっと続きが読みたい作品が多かった(^_^)2020/07/16