内容説明
勇魚(いさな)と呼ばれた海の王者クジラに挑む繊細かつ豪胆な海人の闘いに圧倒された。
喝采と感動の熱い涙がとまらない──椎名誠
世界で唯一、伝統捕鯨に生きるラマレラの民は手銛1本で巨獣に挑む。
近代化の波が押し寄せるなか、祖先から引き継いできた暮らしを守るべきか、
変化を受け入れるべきか、村人たちの心は揺れる。
銛打ちに憧れる若者ジョン、もっと教育を受けたいと願う妹のイーカ、
誇り高い村一番の銛打ちイグナシウス、都会生活を夢見る息子のベン……
それぞれのドラマを通して、存続の危機にある希少文化の“いま”を生き生きと描く。
圧倒的な迫力のクジラ狩りと、村人の心の葛藤が丹念に描写された貴重なルポル
タージュ。「ニューヨーク・タイムズ」紙ベスト100冊選出。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うわじまお
42
インドネシアのラマレラの人々の生活を綴ったドキュメント。彼らは400年前から鯨を獲ることで生きてきた。自作・手漕ぎの船と、自作の銛で。しかし、近代化の波が迫ってくる。環境保護団体は鯨漁をやめさせようとする。これまでどおり当たり前に生きていくことができなくなる矛盾。それをつくるのはいつも人間。人間の横暴をそろそろ止めないといけない。しかし自分も近代化の恩恵にあずかって生きている。ラマレラの人たちの暮らしをうらやましいとも思う。いろいろなことを考えさせられた、約500ページの大作でした。2020/11/19
ばんだねいっぺい
34
伝統的な鯨漁で有名な場所のはなし。テレビで見ただけでは、本で補完してもらった気もするし、それでもなお、足りないんだよなとわかった。ジョンがどうなるのか心配していたが、とりあえずは、よかった。ラマレラだけの話じゃない。世の中、どうなっていくのか、わからない。2020/09/04
よしたけ
30
近代文明に駆逐されつつある狩猟採集民ラマレラ。著者は自らを物語から消し去り、ラマレラ民が語るような構成。鯨肉を分け合い、不足は物々交換で補うが、現地政府の観光地化・現金主義化に翻弄される。主人公ジョンも民族で最も称賛される地位・鯨漁銛手に憧れる一方、大都市に誘惑される。かつてない速度で少数言語・文化が失われ、原住民と環境団体で伝統漁を巡る論争が続く。ラマレラでは、怪我は聖水で治療、不漁は先祖の怒りなど、伝統的考え方が根強く残る。荒唐無稽とも感じたが、理に適うと思われる点も多い。建設的な新旧文化の融合を望む2020/10/18
taku
20
今も捕鯨で生活を営む民族ラマレラ。ネットでも簡単に情報は得られるが、詳しく知りたくて選んだ本書が正解。歴史、文化、生活、とりまく環境や変化、避けられない現代文明の伝播というものをラマレラの民目線で伝えてくれる。その様子は共感を覚えながら読める、ルポルタージュの重みと面白さがたっぷり。ジョンとイーカ兄妹の事が特に響いた。ジョンは誇り高きラマファになっているだろうか。イーカはよく笑う母親でいるだろうか。その後と現在も知りたいな。2020/11/18
パトラッシュ
16
数百年も捕鯨だけで生計を立ててきた先住民ラマレラの男たちが1本の手銛だけで鯨を仕留める姿は、個人では何もできなくなった文明人の無力さを照射する。しかし急速に押し寄せる近代化の波にはあまりに強く、辺境の小さな村にも巨大な歴史や経済事情、国際政治の圧迫まで内外の複雑の事情が絡みつき便利な生活と伝統との狭間で翻弄される村人の姿は痛々しい。本書はノンフィクションだが描写と文体はまさに小説のものであり、メルヴィルの『白鯨』の群像劇版といえる圧倒的な迫力に満ちた叙事詩を織り上げている。今年最高の読書時間を得た気分だ。2020/07/26