内容説明
小学生の息子を連れて鹿を追う週末ハンターの倉内と、トラブルで死体を抱えた詐欺集団のリーダー加藤。獲物を狙う狩猟者と死体遺棄を図る犯罪者が山中で出くわしてしまった――。息もつかせぬ展開と圧倒的リアリティに痺れる表題作。世界最難関の雪山で飢えと寒さに蝕まれていく極限の状況下、人の倫理観の矛盾を鋭く問う短編「K2」。サバイバル登山家が実体験を基に描く唯一無二の犯罪小説。(解説・杉江松恋)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Shoji
47
二編収録されています。『息子と狩猟に』山奥で狩猟中の親子が殺人犯と対峙するお話。『K2』死を直前にした人間の倫理感を問うお話です。解説に「生きるとは殺して食うこと」と書かれていました。その通りの物語です。極限に置かれた人間の「生への執着」の描写に惹き込まれました。もの凄い物語に出会った。一気読みでした。2020/10/16
Nao Funasoko
37
先般読んだ『肉弾』に続きこれまた父と息子による狩猟の物語。表題作も併録された「K2」も背景のテーマは命の取り合い、若しくは輪廻。そして社会規範と己のそれとの狭間での葛藤。両作とも心にズシン!と響く作品だった。 いずれもエンディングの表現はどこか映像的で余韻が残る。2020/07/22
みや
25
表題作始め2篇収録。誰も見ていないときの人間の行動を律するものは何か。未踏の地に足を踏み入れたら頼れるのは自分の肉体だけであり、その存続のためには他者の命をとらねばならぬこともある。そしてその罪は、奪った命の種類によって軽重あっていいのか。いずれも、サバイバル登山家ならではの死生観と知識をもって「罪」の核心を突くスリリングな小説である。ギリギリの状況下という舞台設定を見事に活かしたストーリー展開にページを繰る手が止まらない。2021/11/13
みーなんきー
25
あぁーなんて面白い本だったんだ!それなのに今までこの人の存在すら知らなかった!こんなに心の琴線に触れ、生き方を考えさせられる本、こんな自分好みの本に今まで気づかなかったとは! 前半は山で息子と狩をする、生き物の命を喰らう、動物は殺しても罪にならない、でも人間なら?後半のK2もやはり、人のモラルとは、正義とは、生き物は生き抜くことが最大目的ではないのか? と究極の問いを投げかける。私の解説では誰も動かせません、是非読んでみてください。2021/04/19
有理数
23
読み終えたあとでさえも、その強烈な読後感(決して快い読後感ではない)が引き続ける、壮絶な「山」の物語二編。表題作は、息子と狩猟に訪れたハンターの視点と、凶悪な詐欺集団の視点が、いずれ交わるまでのカウントダウンのように交互に現れる。その最中から心臓が破裂しそうになるが、この両者がついに交錯して以降も、その緊張感に手が震えっぱなしであった。だが単純に「怖い」だけでは終わらない。極限状態に至ることで狩猟者と詐欺師の為すことが重なり、ひいてはそれが「自然」「生命」に結びつく、という描写が後を引く。2020/05/09