内容説明
本書はユングの行ったセミナーの中でも、最良の入門書として世界に認められた記録であり、ユング自らが口述記録を精査した信頼にたる一次資料でもある。開会の辞としてユングは「私自身の考えの発展を素描してみたい」と言って、学生時代の思索から、『赤の書』に記された壮絶な体験、そして自らの体験を心理学へと結実させていく実践的過程を包み隠さず公開している。本書はユングの自己分析過程そのものであると言える。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
roughfractus02
6
少女に憑依する霊を無意識のパーソナリティ化と捉え、生の行き詰まりから脱出を試みる彼女の姿を見る著者は、フロイトとの渡米の帰途に見た先史時代が残る中世屋敷の地下室の夢から自立の衝動とそれを阻む衝動という仮説を立て、性衝動一元論の師と訣別している。本書はここから、タイプ論の優越機能と劣等機能の関係や意識と無意識の補償関係を概説する。後半では、無意識自体にある補償関係を『赤の書』に書かれた自分の夢をアニマとアニムスの元型から象徴解釈し、さらに二元論を多様に展開する自らの思想を語る。詳細な訳注と解題が素晴らしい。2021/05/29