内容説明
異能の私小説家の知られざる名作――昭和24年、日本訪問中のロシア皇太子ニコラスへの暗殺未遂事件=大津事件に関わった愛国者たち……。津田三蔵、畠山勇子、明治天皇、児島惟謙らを軸に、歴史の変動の渦中にあつ人間を見つめた表題作、ほか7篇。戦後日本の転換点に直面した異能の私小説作家が、自己の文学的葛藤と追究の痕跡を刻印した、独自の私小説風世界の魅力が横溢する作品集。平林たい子文学賞受賞作品。
※本書は、『愛国者たち』(1973年11月、講談社刊)を底本としました。
目次
愛国者たち
孫引き一つ
接吻
山川草木
風景小説
私々小説
キエフの海
老友
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
フリウリ
9
1973年刊行の「愛国者たち」の文庫化。1970年、62歳で藤枝氏は医師を廃業している。本書所収の小説群は、医師廃業後に書かれたもののようである。「愛国者たち」「孫引き一つ」は、大津事件の顛末に関する歴史小説で、藤枝氏の目の付け所は独特だが、これ以外の歴史小説はないようだ。仕事を引退して急速に老境へと向かう主人公(著者)が、仏像や絵や焼物を見るために右往左往する内容が多く、おもしろく読みました。1974年刊の「田紳有楽」へとつながります。82025/01/05
Shun'ichiro AKIKUSA
5
「キエフの海」、「私々小説」、いいですね。2022/01/13
Mirror
4
読みながら藤枝の私小説感について漠然と考えてさせられた。自分が経験したことを具に描く狭義の私小説ではなく、そこで自分が想起する夢想的な事柄を散りばめながら、「風景小説」のタイトルで収録された話における、眼前に拡がる具象を自らの眼を通すことで浮かんでくる客観的な風景の姿をを混ぜながら描く自分なりの私小説を意識的に作っていったことがなんとなくわかった気がする。2023/04/16
バーニング
3
藤枝静男の小説は2冊目だが、彼の文章を読んでいると小説とはなんだろうかという気分になる。表題作は歴史小説と歴史叙述の中間というところだろうか。「接吻」は質の高いエッセイだし、「私々小説」は日記のようにも読める。「キエフの海」と「老友」は小説として読めるが、小説的になりすぎない(物語に大きな意味をこめない)のは藤枝だからなのだろう。おそらく。2013/10/26
レフラー
3
田紳有楽にいたる道のようなものが見え隠れしていた。しかしここからどうやってあそこまで飛んだのだろうか。2013/07/08