内容説明
銀色ロケットの遊具、妖しいネオン、白い鳩の羽、水浴びするワニ。はじめて見る場所なのに、ちょっとだけ懐かしい。
ひなびた町の片隅に、ポップな色彩がはじける、著者初のカラーフォト&エッセイ集。
「今、私はあの世から、この世に戻って来たところだ。そして、この世の景色を眺めているのだ。はじめて見る場所なのに、ちょっとだけ懐かしい。知らない……町を歩いていると、ふいに、そう思うことがある」
ショウウインドーの中を覗きこむ。ここに陽が当たってたら、いいのになあ。
夕方、また寄ってみると、上空から一条の光線がビビビー。
「お待たせしましたあ。太陽でございます」「ありがとね」お礼を言いながら写真を撮る。
真っ青な空の下のボウリング場。
公園のロケットの遊具。
廃工場にある鳩小屋、舞い飛ぶ白い羽根。
雑居ビルの中の妖しいオレンジの壁。
水浴びするワニ、きらきらした日射し。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
もりくに
48
武田花さんの「写文集」が好きだ。間違ってもピカピカで、生き生きしたショットはない。「私って、いつも同じだ」とふいに自分に飽きた花さんは、「ふて寝」した後、決めた。「カラー写真をやってみよう」。狙うショットは「はじめて見る場所なのに、ちょっとだけ懐かしい」場所。例えば、廃業した旅館の目立つ温泉街の「路地」、そして隣接する「歓楽街」、もちろん寂れている。時が止まった廃墟の前で、とても元気な植物群。今回、猫は写っておらず、「くまちゃーん、元気でシンデマスかあ」と亡き愛猫に。死んだような景色にウイットある文章。2021/03/12
新田新一
34
ノスタルジックな雰囲気の写真と個性的な文章が一体となった傑作。思いもよらぬ方向から物事を見て、型にはまらない文章を書いていくところは、母親の武田百合子にそっくり。私は『富士日記』が好きなので、この本も楽しんで読みました。33ページに載っている南米のお面を、父親の顔と勘違いするエッセイが特に面白かったです。父親の武田泰淳が天国で苦笑いするような内容。仮面の写真も良くて、不思議な哀感が伝わってきます。とぼけた味わいの中に父への思慕を潜ませた味わい深い文章に心を打たれました。2025/08/25
mick
1
写真とエッセイがつながっているようで、つながってないようで、昭和?案外未来?怖いのかおかしいのか。モグラに噛みつかれてあんまり痛いから泣いていたら、モグラに噛まれるなんて、ハナコは馬鹿なんじゃないか、と父が言った話がおもしろくて思い出し笑いしそうだ。2022/09/03