ちくま新書<br> 香港と日本 ──記憶・表象・アイデンティティ

個数:1
紙書籍版価格
¥1,012
  • 電子書籍
  • Reader

ちくま新書
香港と日本 ──記憶・表象・アイデンティティ

  • 著者名:銭俊華【著】
  • 価格 ¥880(本体¥800)
  • 筑摩書房(2020/06発売)
  • ポイント 8pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784480073235

ファイル: /

内容説明

二〇一九年の「逃亡犯条例改正案」への反対デモは熾烈を極め、多くの負傷者を出し、その戦いの終わりは未だに見えない。香港がこのような事態になったのは、どうしてなのか? 中国大陸の同化政策は、人びとにどのような影響を与えたのか? 本書は、香港人としての実感と研究者としての分析で、現在に至る香港の変遷を考察する。また『ドラえもん』『進撃の巨人』と香港政治運動の意外なつながり、大日本帝国の記憶など、香港における「日本」の表象を詳細に分析する。香港出身の気鋭の若手研究者による、日本人のための香港入門。

目次

はじめに
第Ⅰ部 「準都市国家」香港
第1章 香港とは何か──「準都市国家」を旅する
1 「準都市国家」との初対面
香港は日本で「存在」しない?
香港=準都市国家
ビザフリーと滞在期間
フライトの体験
機内で映画を見る
客室乗務員たち
香港の法律
2 入国して街へ
入国と国境
香港はほっとする
「女王の頭」
ロンドンの影
コンビニの「国民食」
3 ディズニーランドと言語
香港の公用語は「中国語」ではない?
キャラクターの訳名から見る香港の言語
香港人は英語がペラペラ?
SNSから見る香港の言語の特色
4 同化政策のなかで
香港の誕生日
香港というビジネス
香港の変調と同化政策
インフラによる同化
香港人が信じるもの
香港のオリンピック・チャンピオン
第2章 香港の主体性──国籍・「中国」・日本
1 アイデンティティと国籍
アイデンティティと国籍のずれ
主体性を代表するアイデンティティと「緩いアイデンティティ」
香港住民の来歴
事実上の二重「国籍」
2 私と「中国」
同化政策以前の「中国認識」
海外旅行のような中国本土訪問
二枚の写真からの疑問
差別について
香港人はもう我慢の限界
3 香港の広東語・中文
公用語
事実上の標準化
広東語の歌
中文の教育と習得
広東語の「全国制覇」
殺し屋である広東語
広東語とエスニックマイノリティ
本当の王者──金と英語
第3章 二〇一九年の香港──運動と分裂
1 死守
運動の序章
主体保衛運動
戦争の次元
政権と恐怖
警察をめぐる記憶
2 運命づけられた分裂
集合的記憶と香港芸能人の自滅
家族との「政治闘争」
父と「愛国者」の創成
母と庶民の視覚
「大人」のやましさ
3 二〇一九年の小辞典
スピリット篇
行動篇
警察篇
数字篇
道具篇
第Ⅱ部 香港と「日本」
第4章 香港と日本アニメ──表象・記憶・言説
1 日本アニメと香港の過去
共通の記憶と日本アニメ
ローカライズされた日本アニメ
「児歌金曲頒奨典礼」
アニメキャラは裏切らない
『ドラえもん』と過去の香港
「本地蛋」
『ドラえもん』と自由の喪失
2 『カードキャプターさくら』への片思い
『カードキャプターさくら』における「香港」
片思いする香港人
『カードキャプターさくら』と目覚めた香港アイデンティティ
香港の体・中国の魂
3 日本アニメと香港政治
『進撃の巨人』主題歌の替え歌
ヘイトスピーチなのか?
原歌詞との一致
『デジタルモンスター』と正義
第5章 日本イメージの変容とアイデンティティ
1 大日本帝国の記憶
韓国ドラマと日本という他者
香港カンフー映画の民族意識と卑怯な「日本」
香港の怪談と日本軍
怪談より恐ろしいテレビ番組
2 知日派から新知日派へ
戦後知日派──中国人として日本を語る
欲望の日本と香港のポリス時代
『望郷』
新知日派──香港人として日本を語る
野球映画『點五 』
香港アイデンティティと「鬼子」から解放される日本
日本ノスタルジー
第6章 戦争の記憶と「中国民族意識」
1 香港における「反日」の変容
背景
一九〇八~四一年──拡大してきた対日抗議運動
一九四五~九七年──形式化と記憶の混成
戦争記憶と民族意識の相互関係
2 戦争記憶と民族意識に対する政府の操作
香港政庁の対日抗議運動への態度と戦争記憶の処理
重光記念日と平和記念日の背景
イギリス統治の合法性と権威を表象化
華人を統合することと華人からの承認
祝日と式典の公式性
「日本」──「無色の他者」
「日本」はなぜ「無色」なのか
一九九七年以降──祝日と儀式の希薄化
強調される東江縦隊
国民教育としての戦争記憶
第7章 戦争の忘却・想起・香港アイデンティティ
1 イギリス統治の遺産
物質的な場──モニュメント
香港戦に関する論述
「無色の他者」である「日本」
機能的な場──退役軍人団体
二戦退役軍人の経歴──歴史と「日本」の多元性
象徴的な場──記念式典
2 政治動員、社会運動、および戦争記憶の操作
本土派による記憶ブーム
時代思進の活動
メディアと論客の注目
スポーツ、エンターテイメントと記憶ブーム
英雄の再生、共同体の再構築および政治動員
言葉の再利用および中国共産党への批判
反共と戦争記憶
比喩の構成──本土派と親国民党メディアの相違点
歴史のなかの「日本」
おわりに

主要参考文献

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

禿童子

36
若い学究の力作というよりは、行間から魂の叫びが聞こえてきそう。ご両親は大陸出身なので「双非」のポジションですが、香港を「都市国家」と位置づけるのは本土派(香港を本土と見る香港民族主義)のアイデンティティーですね。第二次世界大戦で日本軍に占領されて解放された歴史に自分を重ね合わせて、かつての日本軍に中国共産党を代入するのが2019年の香港の若者の意識と分析する。国家安全維持法で一国二制度を前倒しで解消して同化を進める北京への抵抗がどのような形を取るのか、実力行使を辞さない勇武派への共感が気になるところです。2020/08/03

踊る猫

30
フレッシュな本だと思った。ルサンチマンに囚われていないというか、脂ギッシュに日本を恋するのでもなく反動的になるのでもなく、ニュートラルな立場から香港と日本の文化を洗い直そうとしている。書き手の若さがいい方向に働いたと言えるだろう。果たして見えてくるのは政治的に混迷を極めて迷走する香港の姿ではなく、日本の文化を愛しながらも日本を微妙な立場から受け容れようとしているそんな穏やかな香港の姿だ。この本を片手に他の香港を語った本に入っていけばいい、とさえ言える(だから、逆にこの本だけを単独に読むのも若干違うと思う)2020/08/22

ヲム

28
これまでの日本と香港の結びつきや過去の歴史から現代のデモ活動なども触れられていて、よく分かりました。 著者が同年代ということもあり、目線的にも通じるものがあり、読みやすかったです。2020/07/14

紫の煙

17
著者は1992年生まれの若い世代である。前半は香港人のアイデンティティについての解説であり、興味深い内容だった。中盤は、日本のアニメや漫画カルチャーとの関わり。後半は、戦争記憶の扱いについて。香港からの留学生の視点での考察であり、「香港と日本」というタイトルを内包したものとは言い切れない。 2020/07/11

Ray

16
最近香港のニュースを耳にする度に、反町隆史のPOISONの歌詞を思い出します。雨傘運動が始まる前の香港に旅行に行ったことがあるけれど、その前に訪れたことのあるイギリス、中国どちらとも異なる雰囲気を醸し出している都市だと思ったことを記憶しています。香港がまた訪れたい都市となることを願っています。◎ 香港の自主性と主体性がなくなったら、多くの独特の文化も消えていく。それらの文化は香港人のものだけでなく、華人全体、漢字文化圏の人々のものである。なぜそのように貴重なものを消さないといけないのだろう?(P.99)2020/08/13

外部のウェブサイトに移動します

よろしければ下記URLをクリックしてください。

https://bookmeter.com/books/15854047
  • ご注意事項