内容説明
父親の両腕、両脚にからまれ、しがみつくように寝る幼い娘。デキの良い娘に、何ひとつ不自由させず、こよなく愛する父親。やがて娘は成長し、家を出て、絵かきのセンセと同棲する。父の脇腹にカタマリができ、娘の渡米中に父親は癌死する。濃いつながりを持つ父と娘、母と娘、家族群像を鮮かに描き、女流文学賞を受賞した、富岡多惠子の初期を代表する傑作!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ぷく
14
父と娘、母と娘。息苦しいほどの濃密な関係。溺れぬ為の命綱は必須。庇護する者と庇護される者は、ある時を境に逆転する。その逆転に順応し冷ややかな視点を持てばいいのか。切っても切っても縋りつかれ、「どこまでもついてくるもの」の正体を直視できないでいるうちに年を取り、自分の後ろに連なる巨大化した「どこまでもついてくるもの」は、とうとう自分ひとりの手には負えなくなる。放り出せばいいのだと言うのは容易い。できないのが家族なのだと思う。各短篇のタイトルも含め、考えさせられた作品だった。巻末の解説も非常に興味深い。 2023/05/02
nightU。U*)。o○O
2
犀星ふうの結構を持っている気がする。語り口が自在なところか。会話文が「」ではなく〈〉なのはどんな狙いがあるんだろうか。人物それぞれの背後に過去があって、そのもとにほかの人物も配置されている。四編とも、とてもどっしりした構えを持っている虚構。2015/10/24
den55
0
小説家としての処女作「丘に向かってひとは並ぶ」から2年後の作。4篇の小説が連作として収められている。特に前半2作品は作者の過去を照らし出す非常に面白い作品だ。 男だから思うのかもしれないが、作者と思われる主人公の父親の人となりに強くひかれる。野放図に子供を可愛がったり、突然失踪同然に消えてしまったり・・作者が、このような市井の人々へ向ける愛情こもった目を感じる。 作中、時々登場する「ふがいない夫」は、過去に作者と同棲し渡米も共にした芸術家の池田万寿夫がモデル。2013/09/07