内容説明
20世紀以降、芸術概念は溶解し、定義や可能性を拡張した新しい潮流が続々と生まれている。アーティストは、差別や貧困のような現実、震災などの破局的出来事とどう格闘しているのか。美術は現代をいかに映し、何を投げかけたか。本書は難解と思われがちな現代美術を、特に第二次世界大戦後の社会との関わりから解説、意義づける。世界中の多くの作家による立体、映像、パフォーマンスなど様々な作品で紡ぐ、現代アート入門。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
71
著者はロンドン芸術大学で博士取得後、現在香港理工大学でポスドクフェロー。かなり複雑に入り組んでいる現代美術に関して1960年代以降の芸術と社会について詳述している。欧米、日本、トランスナショナルの3部構成。特に戦後日本のアートシーンの変遷が興味深い。新書なのにこの内容は充実し過ぎ。基本的に何でもありの現代美術では同時代の社会からの影響が大きいし、芸術の社会への影響も大きくなりつつある。「芸術は社会の生産物である」ジャネット・ウルフの言葉がすべて。来月香港へ行った際に現代アートに触れることができれば本望。2020/01/19
コットン
65
『芸術と社会』を最重点項目として書かれているので、通常の現代美術作品の紹介を希望する人には適さない。ただ2000年代以降についても動向を網羅しているのがいい。現代美術における関心の中心が美的なものから社会的なものへ移行していると指摘していると。今後「アート」はどのように進展していくのだろうか? 2020/02/02
佐島楓
56
社会や歴史と密接に関わり、その時々の欺瞞と鋭く対峙しながら発展してきた現代美術。あくまでも入門書なので、もっと知りたいと思うと、キーワードで文献などを検索して調査する必要はあるが、そこまでやってみよう、やってみたいと思えるだけの価値は充分にある分野だということが本書の持つ熱からも伝わってくる。表現の持つ社会性を意識することについて思いを巡らせた。2019/11/19
ころこ
33
若い著者が歴史を書くということは哲学史では出来ないでしょう。それができる状況にあるのであれば、他の著者でもう一冊、二冊読みたいと思いました。本書は社会学に寄っているはずです。意味をつくり、物語をつくらないと読者が読み取れないからです。事実、本書は読み易かった。そういう意味では戦争は「取り上げやすい」テーマだとは思います。普通の歴史でも○○戦争は分かりやすいメルクマールになるように…しかし、美術は既成の意味を解体するものでもある。これは批判というよりも、そう考えて読んでいる読者もいるんだということです。2021/01/02
阿部義彦
25
いわゆる、正史ではなく、現代美術が社会と関わってきた、震災、差別、トランスジェンダー、貧困、戦争などの方に、スポットをあてた斬新な構成となっており、読み応えが有りました。歴史としては、60年代のハイレッドセンター、もの派、なんかが凄く惹かれるものがあり、私は今でもに赤瀬川原平さんを尊敬しています。後半の越境する芸術からは、社会と関わろうとする批評性を、もった芸術集団などに話が渡り、私も好きな Chim↑pom の活動などにもふれられ俄然面白くなってきました。プロパガンダの話題をへて最終章「美術と戦争」へ!2020/06/20