内容説明
今朝の雲はもう居ません。その代わり、風が訪れてくれます。季節の移り変わりを見るのが、私は好きです。なにより有り難いのは、前向きの心でいられることでしょうか。時の移ろいを瑞々しい五感がキリリと掬いとった名篇。「くくる」「壁つち」「台所育ち」……。失った暮らしや言葉の情感が、名残り惜しく懐しく心にしみる、珠玉のエッセイ集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
170
ここ半年の間、ふとした合間にずっとちびちびと読んでいたのでこの日常がなくなるのかと思うと少し寂しいような気持ち。幸田露伴を父にもつ筆者が、美しい文章で 日々の生活、心がけを綴った随筆集。 季節をいとおしみ、一日一日を大切に、背筋を伸ばして生きる。帯紐をきゅっと結ぶように、締め切った家の窓をからりと開け冬のきりりとした風を呼び込むように、ぽんっと背筋を正してくれるような本でした。2019/07/22
おにぎりの具が鮑でゴメンナサイ
41
近所にある小学校の玄関に卒業式の看板が掲げられていた。校庭の桜の枝にはつぼみが芽吹いていた。風はまだ冷たくても、ここに住んでから四回目のひとりで迎える春がもう近いことに焦れた。遠方の叔父から入学祝いが送られてきて、寿がれるべき娘はここにいないから戸惑ったが、お礼の電話をかけた。叔父は離婚のことには触れず、ただ娘の成長を喜んでくれた。私が娘のランドセルを背負う姿を見ることはできないけれど、いつまでも父親なんだと教わった。幸田文さんの本を読むと背筋が伸びる。季節のもたらすかたみを大切にしようと、残雪に誓った。2017/03/19
アナクマ
29
(p.33)大工さんたちは心ゆくばかり研ぎあげていて、決して間に合せということをしていない。運針も研ぎも、私はずっと間に合わせでしていた。間に合わせとは、なんと愚劣なことかとしみじみ思う。いま私ののぞみは一尺まっすぐに縫うこと、薬味の葱がすっすっと切れるように包丁が研ぎたいことである。2021/04/26
ソングライン
13
70歳になる明治生まれの作者が感じる巡りゆく季節、変わりゆく日常生活を綴った随筆集です。凛とした生きる姿勢と美しい文章に惹かれますが、時に現れる、大事に当たる時は小事を忘れよ、心が縛られるときは、目を閉じ美しいものを想像し、気を変えよ、などの金言を娘に諭す父の姿に温かい娘への想いを感じます。2018/12/06
あ げ こ
13
いつ何度読んでも幸田文の文章はいい。この滞りのなさ、淀みのなさ、誤魔化しのなさ、手抜かりのなさ。涼やかで、綺麗で、小気味好い。簡単に捨ててしまわない。それきりにしない。自らが持つもの、学んで来たもの、身につけて来たもの。しっかりと活かす。ちゃんと見つめて、確かめて。よく知ろうとする。よくわかろうとする。わからなければそのわからなさを。合わなければその合わなさを。ちゃんと言葉にする。会得したならば、鈍らせてしまう事なく磨き続ける。身についた事を、身についた言葉で、自らの持つ言葉で、表現する。いつも好ましい。2018/03/29
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