内容説明
シェナンドアの一族に生まれ、生物学者を目指す青年デイヴィッドは、あと数年のうちに地球上のあらゆる生命が生殖能力を失うことを知る。一族は資産と人員を集結し、クローン技術によって次世代を作り出すための病院と研究所をシェナンドアに建設した。動植物のみならず、人間のクローニングにも成功したデイヴィッドは、クローンたちが従来の人類とは異なる性質を帯びていくことに危惧を覚えるが……。滅びゆく人類と無個性の王国を築くクローンたち、それぞれの変遷を三部構成で描く、ヒューゴー/ローカス/ジュピター賞受賞作、待望の復刊。/解説=渡邊利道
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
100
疫病、飢饉、放射能による環境汚染、そして原因不明の不妊。滅びに差し掛かった人類にとってクローン達は体の良い労働力、繋ぎでしかなかった。しかし、クローン達は同類同士によるテレパシーを持っていたのだ。人は孤独になれる時間があるからこそ、自分を見つめられる。でもテレパシーで繋がるクローン達は公共の利にならない自我を許さなかった。繁殖員、追放の儀式などの字面と実態が全体主義だった国を連想させて肌寒い。そして先人達が紡いだ恩恵を無条件に享受しつつも世代を指示通りしかやれないクローン達の姿に己を重ね、痛みを覚えた。2020/07/11
ヘラジカ
78
詩的なタイトルのSF小説は好みなことが多い。あまりサイエンス色が出すぎていない傾向にあるからかもしれない。この本も例に漏れず、ほとんど躓くところがなく素直に読める素敵な作品だった。第一部と第二部ではおぞましい展開に何度も遭遇し、地味な演出の割には下手なホラーよりもぞっとすると思っていたが、終盤に入るとそれも次第に悲壮感と切なさに変わっていった。デイヴィッドとシーリアの愛が遥かなる時を超えて煌めくラストは美しい。多様性の社会についても考えさせられる作品である。黙示文学の名作。2020/05/01
cinos
60
人類滅亡に対してクローンで存続を図ろうとするが、クローンたちは心が通じていて…。三部作からなり、全体と個の問題が描かれている。廃墟と化した都市と森や川の自然との対比も心に残ります。タイトルが最高です。2021/03/16
ざるこ
55
核実験による放射能汚染、環境破壊。異常気象に疫病。人間の体は徐々に蝕まれ女性は不妊となる。人類滅亡の危機を察知したサムナー一族。全てが廃墟と化した世界で一族のクローンを生み出していく。同じ考え、同じ感覚、同じ人間が何人も。想像すると気味が悪い。無個性集団の中で数人に芽生える自我。それが人間のあるべき姿だと認めることは王国にとって脅威でしかない。モリーやマークの苦悩を皆で分かち合えていれば結末は違っていただろうに。マークが渓谷に戻った時の情景はとても美しく、でも儚くて。タイトルの意味が腑に落ちた気がします。2020/06/01
Tαkαo Sαito
49
44年前のSF小説とは思えないくらいの完成度。中編の物語が3部構成になっているが、最後の、結末がとにかく美しくも儚さがあり感情を鷲掴みにされる。読むのに1週間もかかってしまったが素晴らしい作品。SFが苦手な人でも読めると思うのでチャレンジしてみてほしい。作中に、特に大きな見所の波が用意されているというわけではないが、だからこそ美しく素晴らしい作品に着地しているのだと思う。2020/06/27