内容説明
ホームレスを強制退去させた公園の治安を守るため、ボランティアで見回り隊が結成された。ある夜、見回り中の吉森は、公園にいた奇妙な来訪者たちを追いだす。ところが翌朝、そのうちのひとりが死体で発見された! 事件が気になる吉森に、公園で出会った昆虫オタクのとぼけた青年・エリ沢が、真相を解き明かす。観光地化に失敗した高原での密かな計画、〈ナナフシ〉というバーの常連客を襲った悲劇の謎。5つの事件の構図は、エリ沢の名推理で鮮やかに反転する! 第10回ミステリーズ!新人賞を受賞した表題作を含む、軽快な筆致で描くミステリ連作集。/【収録作】「サーチライトと誘蛾灯」/「ホバリング・バタフライ」/「ナナフシの夜」/「火事と標本」/「アドベントの繭」/あとがき/解説=宇田川拓也
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
へくとぱすかる
201
「ブラウン神父」の作風が現代によみがえったような作品。そうとしか思えないのは、ラストの、牧師さんの死の真相を解き明かした短編の影響かも。昆虫がからんだ謎ということで、過去に読んだミステリの例も思い出したが、昆虫はあくまで探偵の趣味に抑えている。事件の背景がよく考えてあるのも、単なるバズラーにとどまらず、小説的におもしろい。魞沢泉青年が酒に弱そうなのに、呑んでしまうキャラなのがおもしろい。続編はまだ本としてまとめられていないらしいが、ぜひ読んでみたいと思う。文庫オリジナルで出してもらえると、ありがたい!2021/02/13
みっちゃん
173
「とぼけた切れ者」昆虫オタクの名探偵登場。虫を求めて訪れる場所という場所で必ず不可思議な事件に遭遇。出会う人達と交わす会話の珍妙なこと。全く噛み合わずどんどんずれていくやり取りに思わず脱力、油断していてはいけない!その恐るべき観察眼と洞察力で事件を解決。一番驚かされ、あんぐり開いた口がずっと閉じなかったのが「ナナフシの夜」ナナフシはとあるバー。行きずりに出会った夫婦の微笑ましい痴話喧嘩の果てに…が!全く想定外の結末に驚愕。確かに伏線、あったわ。やられた!この少ない頁に凝縮された秀逸ミステリー、お見事です。2021/02/15
stobe1904
143
【昆虫好き探偵の連作ミステリ】先に『蝉かえる』を読んでいたが、とても気に入ったので本書を手に取る。ミステリの短編5篇で構成され、どの作品もレベルが高いが、中でも『火事と標本』が秀逸。亜愛一郎の系譜を彷彿させる、ちょっとズレた、とぼけた味と叙情性がうまく噛み合った連作集でミステリとしての切れ味も抜群。あとがきの泡坂妻夫氏とのエピソードに心があたたまる。新作が待ち遠しい。★★★★☆2024/01/27
五右衛門
129
読了。結構好きです。この感じ。初めての作家さんでしたがハマりました。謎解きも切れてました。個人的には母と子の物語が寂しく感じながらもゾクっとさせられました。短編各終盤も無理なく解決しており、今後追いかける作家さんがまた増えました。次の作品は長編なのかな?楽しみです。 2023/08/20
タイ子
123
初読み作家さん。昆虫を愛してやまない男性、名前を魞沢泉(えりさわ せん)と言う。彼の登場する所、いや彼が訪れる所に殺人事件多し。自分からしゃしゃり出て事件の謎を解くなどの図々しい根性は全くない。だけど、何故か気が付けば飄々としながら真実を見抜いている。そして、伏線の張り方が上手い。短編なので最初から何気に読んでしまう部分にしっかり伏線が張られている。5つの短編集、どれも面白い。特に「火事と標本」が良かった!悲しくも切なく人間の業というより情が胸に響く作品。また新しいミステリー作家に出会った。2021/01/26