内容説明
本書には5名のライフヒストリーが収録されています。子どものころに南米から日本に移住し、やがてゲイとしての自分に気づいた人。夜の世界でなんとか自分の生きる場所を切り開いてきた「ニューハーフ」。満州で生まれ、波瀾万丈の人生の果てに大阪でホームレスをしていた男性。さまざまな人たちが語る、「普通の人生」の物語です。
目次
はじめに
ルイス──国、家族、愛
りか──「女になる」こと
マユ──病い、尊厳、回復
よしの──シングルマザーとして、風俗嬢として
西成のおっちゃん──路上と戦争
あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
75
日系南米人のゲイ、ニューハーフ、摂食障害者の当事者、シングルマザーの風俗嬢、元ホームレスの、《語り》をとおした「普通の人生」の記録。どれも面白いが、そのなかでいちばんは、最後に登場する元ホームレスの「西成のおっちゃん」。年齢を重ねると饒舌に拍車がかかるのか、家族との数十年前の出来事が現在の時間のなかで最近の出来事のように浮遊したまま存在する。飯場での生活に、東さんとか西さんとか北さんとか本名を使わないで東西南北全部使い回したこと、テント暮らしと空き缶拾い、の語りは人間味があふれて忘れがたい。「りか―『女に2019/04/19
ネギっ子gen
49
【我々が空想で描いて見る世界よりも、隠れた現実の方が遥かに物深い(柳田国男『山の人生』)】社会学者がインタビューした、日系南米人のゲイ、ニューハーフ、摂食障害の当事者、シングルマザーの風俗嬢、元ホームレスたちの人生の記録。<彼ら/彼女らの語りを共に聞くことで、ほんの数時間のあいだ、「私ではない私」の人生を垣間見ることになるでしょう。私たちは、他人の人生の記憶や時間、感情、経験を、語りを通して共に分かち合うことができます。生活史を読むことは、私たちが生きなかった別の私たちの人生を共有することなのです>と。⇒2025/03/04
水色系
21
学生時代以来の再読。有名人とかでなく、そのへんにいる人の人生の断片を取材したもの。「マユ」の摂食障害の話。体調が悪くて、外でごはんが食べられなかった(今はよくなったが完治したわけではない)自分と重ねながら読んだ。今生きている一人ひとりに物語がある、と思うと途方もない気持ちになるよね…。2024/09/23
pirokichi
20
社会学者の著者は「生活史」(ライフ・ストーリー)とよばれる語りを集めるために聞き取り調査をしている。本書は日系南米人のゲイのルイスさん、ニューハーフのりかさん、摂食障害の当事者であるマユさん、シングルマザーの風俗嬢よしのさん、元ホームレスの西成のおっちゃんの5人のインタビューをまとめた、マイノリティではあるが「普通の人生の断片集」。普通って?普通ってすごい。すれ違う人達が、電車で乗り合わす人びとが、職場の人間が、あらためて、ひとり、ひとり、に見えてくる。著者の大作『東京の生活史』も読みたい。2022/03/17
いっち
20
マイノリティと呼ばれる5人が、インタビュー形式で語る。日系南米人のゲイ、男の感覚を捨てたくないニューハーフ、摂食障害の女性、シングルマザーの風俗嬢、元ホームレスのおっちゃん。読んでいる間、頭にあったのは、「この人たちじゃなくて良かった」という考え。良くないかもしれないけど。辛すぎる。自分は日々の仕事さえ辛いのに、この人たちの境遇は耐えられない。ただ、風俗嬢とホームレスに関しては、甘えもある気がする。その生活から脱却する努力をしているのかと憤りすら感じた。風俗嬢の「結婚するなら我慢しても金持ち」とはいかに。2020/02/21