内容説明
占領期のGHQとの交渉、経済的自立、国際社会への復帰という功績の一方で、吉田茂が残した戦後政治の矛盾は現代にまで尾を引いている。戦後最大の宰相が信じた「日本の進むべき道」とは何か。吉田茂の虚実に迫る著者渾身の大作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
63
吉田茂はビスマルクだと思った。主君の信任を得て議会や政党の意見を軽視し国政を進める外交官出身の宰相。ただビスマルクは自国の王に仕えたが、吉田の主君はマッカーサーだった。大久保利通の孫娘を妻とした吉田は、明治時代が建てた国家を滅ぼした軍部と迎合した政党や大衆への怒りと軽蔑を隠しながら「日本を民主国家にする」建前を崩さず、実質的な維新への復帰を目指したのでは。GHQという主君がいた占領期は通用したが、独立回復後の政争に対応できず晩節を汚した。吉田は確かに時代が必要とした人だったが、不要となれば捨てられたのだ。2021/04/10
NoControl
8
吉田茂のことをよく知らなかったので読んでみた。吉田自身は天皇の忠臣たる保守政治家であり、明治維新のやり直しを目指したという。民主政治家ではないのだろう。戦後期にGHQと対等に渡り合った点は同時期の首相、外相とは一線を画しており、復興に主導的な役割を果たした点は間違いない。ただ憲法問題などを、矛盾を認識しながらもそのままとしてしまったことが現代でも尾を引いている。2020/10/18
ジュンジュン
7
明治11年生まれの吉田茂は、マッカーサーとともに”新生”日本を作ったのではなく、軍部が歪めた本来の姿(明治政府から受け継ぐ近代日本)を元に戻す”再生”日本を作り出したと著者は規定する。この解釈をもとに、戦後日本を設計した彼の功績と限界を描く。500ページ以上を費やすに相応しい堂々たる生涯だった。2020/07/14
紺色
2
昭和史の研究家による吉田茂の伝記・評論。吉田の本質は、戦争期に軍主導国家となった日本の歪みを正し、明治以来の国家の形を引き継ごうとする宮廷官僚であるとする。天皇制の維持を前提に、占領前期には平和主義中心、後期には反共の為の再軍備を要求するアメリカに対処しながら独立を維持したことを評価する一方、それに代わる新しい国家像を示すことが出来なかったとその限界も指摘する。 吉田の人物像に加え、現在にまでつながる日本の「捩れ」の根本もよく分かる。戦後初期の政治状況を理解する入門書としても自分には有用だった。2022/12/27