内容説明
もういちど、ガリヴァーを呼び戻すために――。
名手・吉田篤弘が贈る、おかしく哀しく奇妙で美しい、色とりどりのおもちゃ箱のような短編集。
それは、「テントン」と名乗る男から来た一本の電話が事の起こりだった。男の誘いに乗り、新聞記者のSはある島へ向かう。出迎えたのはミニチュアの家が連なる街と、赤児ほどの背丈しかない男。「ようこそ我らの王国、リリパットへ……奇妙な味わいの表題作「ガリヴァーの帽子」
元作家と元シェフが暮らし始めた洋館に現れた王子の奇妙な顛末を描く「孔雀パイ」
奇妙な夢の中で、川を下りながら鰻屋を経巡る「ご両人、鰻川下り」
シャンパンの泡たちの短い一生を描いたおかしな寓話「かくかくしかじか」
ほかに、コーヒーカップを持つと手がなぜか震えてしまう「手の震えるギャルソンの話」、彼女の残していったトースターをめぐる奇妙な出来事を描いた「トースターの話のつづき」など。
読む人々を、不思議な世界へといざなってくれる、物語好きの大人のための8編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
Tαkαo Sαito
38
「天使も怪物も眠る夜」で初めて吉田篤弘さんを知り、ジャケ買いした2作目は短編集だった。表題作はガリヴァー旅行記に着想を得た作品だがこれだけが良く理解できなかった...それ以外の短編はどれも本当に面白く、声に出そうものなら笑ってしまう表現が多い。「御両人、鰻川下り」の話では世界観がめちゃめちゃなのが面白く、「女房」という名の男と主人公がひたすら川下りをするのだが、先々でなぜか鰻屋だけが出てくる笑。「また鰻屋か」「また、食うのか」など笑っちゃうような表現が堪らない笑。ゆっくり読んでも意外とサクサク読める作品2020/04/26
なつくさ
30
吉田さん2作品目。不思議な不思議な短編集。「ガリヴァーの帽子」「御両人、鰻川下り」特に後者の方はとんでもない世界に入り込んでしまったようで心もとなくなりました。そして、お気に入りは「かくかく、しかじか」。なんと、ドンのペリニヨンの泡たちが主人公。でも、自分たちも結局同じこと。地球の中のアーブークー。いつかは水面に、飲まれて、消える泡たちと同じなんだ。泡のように昇っていく。人生は道じゃない。アーブークーなんだ。泡よりもちょっと鈍感な人間。僕は少し浮き上がり、静かに生きたい。アーブークー、ブクブクブク。。。2021/05/03
コジ
29
★★★☆☆ なんとなく迷走/暴走感があるように思えた短編集。いつもの吉田篤弘らしい落ち着いた雰囲気もあるにはあるが、著者自身の解説でも「ここにはいくつかの『おかしな』作品が含まれている」と述べている通り全般的にシュールで癖が強め。理解し易さで挙げれば「イヤリング」。シュールというより哲学的なのが「かくかく、しがじか」、一番難解に感じたのが最後の「孔雀パイ」。最近、思うような吉田篤弘(含むクラフト・エヴィング商会)作品に続けて出会えてないのは自分の期待値が高すぎるのか?2020/04/10
ともこ
27
著者の作品の8割は本棚に取り揃え、ぽつりぽつりと読んでいる。残り少なくなってしまったが、いつもながら静かな夜に読む本として心地よい。「イヤリング」「手の震えるギャルソン」の登場人物のさりげない優しさがいい。そしてなにより「かくかくしかじか・・」の発想が見事。シャンパンの泡ひとつひとつがこんなことを考えている、想像しただけで楽しくなる。短編集で訳のわかりにくいものもあったが、それもまた吉田篤弘さんの世界かと・・。2023/05/08
ひろ
24
文庫版にて再読。文庫のあとがきにて吉田さん本人が述べている通り、おかしな作品が含まれる短編集。表題作もその一つ。現実の中に突如として入り込んでくる空想の断片が浮遊感を与える。案内人=狂言回しの存在と会話の軽妙さで流れるように進んでいく物語たち。設定が掴みきれないままに読まされてしまう。独特の味わい。過去の代表作に見られるノスタルジックで柔らかな物語もいくつか含まれ、そちらは安定した面白さ。様々な味わいを感じられる短編集で良い。2021/02/23




