内容説明
元クリエイターの夫と築45年の団地で倹しく暮らす59歳の私。無職の男を養い、遠い実家で独居する惚けた父の介護に行き来する日々。入退院、施設探し、説得、契約、留守宅の管理。時間に、お金に、人間に、振り回され、仕事は、定年は、介護の終わりは……。そんな矢先、夫に癌が見つかる。神は老いた父の死を願うような不埒な私に、罰として私の一番大切なものを奪うことに決めたのだ。還暦女のリアルな日常が胸を衝く、切実小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
モルク
102
痴ほう症の父の遠距離介護。やっと結婚することができた元クリエイターの無職の夫。実家に赴くため申請する有給休暇もその回数が増える度に職場での立場も…。それとも知らずなんとも我儘で自慢やの嫌な父をなんとか施設に入れたものの、経済的に継続できるかどうかの不安、空き家となった実家の管理の大変さ、そして何もしない夫。さらに夫に癌が見つかりあっという間に…。父に対しても夫に対してもやり場のない気持ちが手に取るようにわかり切ない。かつての生活、今後の姿として身につまされる。命の重さに違いはないがでもやっぱり本音は…。2022/09/04
千穂
39
恋愛物かと何の先入観なしに読んだ初読み作家さん作品。冒頭からおいおい…父は、ウンコ臭い。と来た。血の繋がりのない父親の介護。それも横浜から出雲、遠距離介護。持病は糖尿のみの認知症。90過ぎ。出来ることなら関係性を断ち切りたい。かたや娘も60,永年の恋愛の末結婚、相手は65、無職、ほぼヒモ状態。遠距離介護の合間に夫に末期癌が見つかり呆気なく旅立ってしまう。さっさと死んで欲しい父親はいつまでも娘に迷惑をかけ。それでも愛するひとと過ごす時間は何者にも変え難く。先が気になり一気読みでした。2020/06/01
akiᵕ̈*
34
認知症で悪態をつく血の繋がらない親の介護の対応の為に仕事を度々休まなくてはならず、それも横浜から出雲まで何回も。当然職場の人たちからは冷ややかな態度を受け辞めざるを得なくなり、夫はいるも無職のヒモ状態。散々振り回され早く死んで欲しいと望むも長生きしている頑強な父親。なのに唯一の心の拠り所である存在の夫は癌であっけなく去ってしまう。介護と看病。どちらの描写もあまりにも生々しく、わたしが文音の立場だったらこの状態に耐えられるだろうかと心がキリキリたまらなかった。最後のページのラスト3行がずっしりと心に刺さる。2020/02/24
信兵衛
28
親の介護問題、自虐風に小説化した、という印象。2020/06/07
うさうさ
20
冒頭からリアルで生々しい描写に一気に引き込まれました。 本当は棄ててしまいたいほどのクソジジイの認知症の父親を何とか施設に預けるために遠方から行き来する娘の壮絶な苦労と、還暦近くにやっと入籍できたヒモのような夫との慎ましい生活。 読んでて情景が目に浮かぶし、彼女の苛立ちもヒリヒリ伝わってきて叫び出しそうにる。 なぜ次から次へと大変な事の連続なのだろう。 これが年を取るという事の一端なのだろうか。 何度も泣きそうになりながら読み終え、溜め息をついた。 めちゃくちゃよかったです!2020/02/08