内容説明
十六年前に謎の死を遂げた親友ミルドレッドの夫である医師アンドルー・モローと再婚したルシールは、一見平穏なその生活の裏側で、アンドルーを溺愛する義妹や自分から距離を置く継子たちとの関係に悩み続けていた。そんなある冬の日、謎めいた男がモロー家を訪れ、ルシール宛の小箱を渡して立ち去った。その箱を開いた後、彼女は何も言い残さず、行方をくらましてしまう。なぜ彼女は姿を消したのか。その箱の中身はいったい何だったのか。心理ミステリの巧手ミラーの初期を代表する傑作、待望の新訳で復活。/解説=春日武彦
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Kircheis
301
★★★★☆ 医師アンドルーの後妻ルシールにある小包が届いた日、彼女は失踪する。その後、発見されるも精神に変調をきたしており、精神病院に収容されるが…という心理サスペンス。 ダークサイドに堕ちた人間の精神状態が巧みに描かれており読み応えがあった。そんなに都合良く行くかと疑問に感じた部分もあったが、終盤に向けてどんどん真相が明らかになっていくスピード感に惹きつけられ、余り気にならなかった。 時間を空けて再読したい一冊。2022/07/20
buchipanda3
118
心理サスペンス長編。心の内というのは何ともシュールな世界なのだなと改めて感じた。現実と妄想の境界をふらつくような描写に脳みそがぐらつかされて悪酔いしたような気分。それでも(解説の春日先生の表現を借りると)その剥き出しな心理のグロテスクさの屈折した魅力に囚われている自分もいた。序盤は不気味な夢の話や悲惨な事故の話で、どこへ向かっているのかよく分からない状態だったけれど、謎めいた箱が登場してから物語は一気に動き出し最後まで目が離せなくなる。狩猟になぞらえた演出にも唸らされた。著者の他の作品もぜひ読んでみたい。2020/02/29
mii22.
63
隣人で親友のミルドレッドの死後に彼女の夫と再婚したルシール。同居する義妹や先妻の子供たちとの平穏そうな日常の中に潜んでいる各々の秘密と悪意に徐々に蝕まれていく家族。疑心暗鬼に陥り精神をも病んでゆく心理描写に悪夢を見るような怖さと気持ち悪さと不安を覚える。さすがミラーと唸らされるクラクラする幻想的表現もこの物語の不穏で妖しげな雰囲気を盛り上げる。鉄の門の内と外、どちらが安息の場所でどちらが正気の世界なのだろう。心の中で幾度も息を殺し、悲鳴をあげながらも妖しく美しいミステリの世界に深く埋もれていった。2020/05/12
りつこ
40
冒頭では冷静沈着、計算高い女に思えたルシールが、怪しげな小男が届けた小箱を受け取ったとたん叫び声を発して失踪してしまう。家族が彼女を見つけ出した時にはルシールは元の彼女ではなくなっていた…。正気と狂気の境界は曖昧でぐるぐる回る思考は以前は見えなかったもの、見たくなかったものを次々見せていく。いったいこれはどういうことなのだ、何が起こっているのだと目を見張っているうちに、次々人が死んでいく…。今どきのミステリーにあるようなスピード感やサービス精神はないけれど、心理描写が巧みで読ませるなぁ。夢中で読んだ。2020/04/21
*maru*
37
謎の死を遂げた親友の夫と再婚したルシール。表面上は穏やかに見える暮らしの中で、子供たちや義妹との関係性に悩み、自分の居場所を探す彼女。謎めいた訪問者、小包、失踪…彼女の身に、一体何が起きたのか─。信頼と実績の三部構成。不安の渦に巻かれながら底無し沼にズブズブ沈んでいくような、息苦しく、先の見えない物語。最後まで緊張感が持続し、一瞬たりとも気が抜けない上質なミステリでした。ヒリヒリとしたこの感じ、大好物です。後味は決して良くはないが、読んで良かったと思える良作ばかり。マーガレット・ミラーおすすめです。2020/04/23