内容説明
冷戦後のアメリカ政府の一極覇権戦略は破綻した。日本周囲の三独裁国(中国・ロシア・北朝鮮)は核ミサイルを増産し、インド、イラン、サウジアラビア、トルコが勢力を拡大している。歴史上、多極構造の世界を安定させるため、諸国はバランス・オブ・パワーの維持に努めてきた。19世紀後半の欧州外交を支配したビスマルク、俊英外相タレーラン、哲人政治家ドゴール。聡明な頭脳とパワーをもち合わせた三賢人が実践した「リアリズム外交」は、国際政治学で最も賢明な戦略論であり、日本が冷酷な世界を生き抜く鍵となる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
TS10
17
外交思想に重点を置いたタレーラン、ビスマルク、ド・ゴールの列伝。明治の元勲たちは、ドイツ統一直後のビスマルクと会い、感銘を受けたために、それまでの攻撃的な権力政治のみを偏って見習ってしまったと説き、防御的な勢力均衡外交の重要性を力説する。ドイツ連邦が作られた目的は、ドイツ・ナショナリズムを封じ込め、フランスとロシアに対し均衡を図ることの他に、当時領土を急速に拡大しつつあったプロイセンを封じ込めることにあったとの指摘が興味深い。ビスマルクは、その内二つを打破した上で中欧における勢力均衡の維持に心を砕いた。2024/04/07
masabi
14
【概要】リアリズム外交で祖国を発展させた賢人としてビスマルク、タレーラン、ドゴールを採り上げる。【感想】本書でのリアリズムは、①国際政治は無秩序②国民国家が主体③国家利益を追求④イデオロギーを排した勢力均衡に代表される。筆者の主張としては、ドゴールを範にした対米従属からの脱却と核武装だろうか。リアリズムを学ぶならビスマルクが、日本の将来を模索するならドゴールなのだろうが、紙面の関係でドゴールの思想や外交方針を解説するだけで実際にアメリカとどう交渉していったのかに触れられていないので残念だ。2022/04/11
カブトムシ
9
三賢人のうちで、現在の日本外交の苦境を理解するのに最も役に立つのは、ドゴールの外交思想と国家哲学であり、学べる教訓は多いという。ドゴールは、1944~45年と1958年~68年の約11年間、フランスで最強の政治権力を握った。「救国の軍人」となった最大の理由は、恵まれた家庭環境にあった。ドゴールの父親は卓越した教育者であり、ラテン語やドイツ語の古典文学を原文で引用する知性と教養を父親から相続したのであった。ドゴールの核戦略理論の解説は、著者の真骨頂で、分かり易いものであった。ドゴールだけでも読む価値がある。2025/02/21
Tatsuya9
9
非常に興味深くて勉強になった。外交や国際政治はあまり触れたことが無かったが、勢力均衡という方針が重要だと分かった。それを踏まえると、今の日本は堕落しており、ド・ゴールが語ったように「自分の国を自分達の手で守れない国は衰退していく」という予言は当たっている。日本ももっとリアリティを持って外交や独立について考えていかなければならないだろう。2020/05/31
ta_chanko
9
三人の共通点は、大国間のバランス・オブ・パワー(勢力均衡)の中で自国の存立を図るための、徹底したリアリズム外交。理想主義・イデオロギー・好き嫌い・宗教信条に基づく外交や戦争が平和をもたらすことはない。三人とも大勢や世論に流されず、自分の信念を貫き通すことができる強烈な個性の持ち主。こういう傑物が現れないと、国家の危機は救えないのか。今後の日本が、アナーキーな国際社会で生き残っていくためには、リアリズムに徹した外交が不可欠。いつまでも対米従属ではいけない。2020/03/07