内容説明
ドヤ街に住む男女の、たくましい生き方を描く、傑作短編集。西成の遊戯場に勤める八城は、別れた妻・広美を探すため、キャバレーに通ううち、妻にそっくりの女・奈緒子に会った。八城は、やもめ暮らしの自分の部屋に、奈緒子を誘うが、トイレから出た彼女は、八城の顔を見て大声で悲鳴を上げる。奈緒子の隠された秘密とは……。という表題作ほか5編を収録。人生の谷間に垣間見た、男の地獄と女の業。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
カノープス
2
売春婦の微笑に宿る僅かな光。黒岩の筆は、社会の縁に追いやられた魂を捉え、その刹那の生にニヒリズムの冷たい息吹を見る。金も、希望も、未来も、砂のように指の間からこぼれ落ちる街。西成をキャンバスにして黒岩が描くのは、成功に見放された者たちの小さな、しかし燃えるような抵抗である。酒場の喧騒、仲間との戯れ、女たちの強さと脆さ。黒岩の物語は、絶望の淵で踊る人間の影を愛でる。彼の文学は、涙通りの片隅で、一輪の花が咲く瞬間を教えてくれる。虚無の夜を生きる我々に、その花の香りを、そっと差し出してくれるのだ。 2025/07/19
ycoco
0
阿呆な男とバァで働く女達の、切ない短編集。切なく哀しいトーンなのに、なぜかしらどこか可笑しみが感じられるのが不思議。昭和30年代から40年代?の、時代感も楽しめる。2023/12/23