内容説明
韓国で20万部突破!!
韓国文学の騎手が「喪失」をテーマに紡ぎ、2018年、韓国の最大手書店「教保文庫」で『82年生まれ、キム・ジヨン』に次ぐ小説部門第2位となったベストセラー。
汚れた壁紙を張り替えよう、と妻が深夜に言う。幼い息子を事故で亡くして以来、凍りついたままだった二人の時間が、かすかに動き出す(「立冬」)。
いつのまにか失われた恋人への思い、愛犬との別れ、消えゆく千の言語を収めた奇妙な博物館など、韓国文学のトップランナーが描く、悲しみと喪失の七つの光景。
韓国「李箱文学賞」「若い作家賞」受賞作を収録。
推薦・若松英輔
「居場所を見失うことは誰にでもある。ひとはそれをふたたび、おのれの痛みのなかにも見出し得る。そうした静かな、しかし、燃えるような生の叡知がこの作品集を貫いている。」
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
90
涼しげなジャケットと表題に惹かれて手に取った。2018年韓国文学で82年生まれ、キム・ジヨンに次ぐ小説部門第2位の売り上げというのも頷ける。7篇の短編集。いずれも「喪失」がモチーフに、それに纏わる諦観、嘆き、悔恨の念を静かに語る小説ばかり。喪失の記憶は、時とともに消え去るのではなく、積もり積もって溢れ出るものであることを教えてくれる。それに対して誠実に言葉で伝えようとすると小説となり、詩になるのかもしれない。「ノ・チャンソンとエヴァン」「風景の使い道」が好みだが、どれもセウォル号以後文学に属す事が伺える。2020/08/20
星落秋風五丈原
62
「セウォル号以後文学」というジャンルが韓国でできたらしい。テレビを通じて彼らは乗客の命が失われる様を刻一刻と見た。その事が人々の心に喪失=セウォル号と刷り込まれたのだ。本編は、思わず笑ってしまうダメオヤジが登場する『走れ、オヤジ殿』とは真逆の短編集。とはいえ同著者の『どきどき僕の人生』も語り口調こそユーモラスだったものの、早老症の主人公と両親はやがて別れる運命にある。キム・エランは「物語こそが死に抗する手段」と書いていた。書くことは心を落ち着かせる。書かれたものを読み淵の一歩手前で立ち止まる読者もいる。2019/07/16
syaori
61
「こんなことを言うのはおかしいですが/ありがとうございますと伝えたくて」。様々な喪失を紡ぐ本書の感想として浮かんだのはこれに似た言葉だったように思います。そしてそれは、この本が「平凡な物事や風景が、実は奇跡」なのだということを語ってくれたからではないかと思います。平凡な日常を、人を、愛を喪って呆然と立ちすくむ人々。最後の『どこへ行きたいのですか』では、そこから動き出す力になってくれるのも、喪った人やものへの思いに似た「何か」なのだと言われているようで、そのことに救われるような胸が痛むような思いがしました。2020/08/06
みねたか@
48
「美しい文章を書く人」というのが第一印象。様々な喪失を題材に,悲しみ,倦怠感,空虚さ,悔恨,そんな感情を抑制的でありながら鮮やかに描き出す言葉を紡ぐ。しかし,読み進む中で感じたのは,著者の強い探求心。物語を美しくさらさらと終わらせはしない。通常の着想から一歩踏み出し,更に深い物語に,人の心のさらなる深部に,作中の人物とともに踏み出していく矜持と気概。押しつけがましくも仰々しくもなく,そっと一歩を踏み出していく。また一人、隣国の素晴らしい若い才能との出逢いを与えたくれた皆さんに感謝。2020/10/06
あじ
48
韓国文学の中でも邦訳の多いキム・エランの最新訳短編集。癌を患った愛犬を安楽死させるため投薬料を稼ぐ少年が、タイミングを逸したり物欲に屈したりして“その日”を延ばし延ばしにしていく。風前の灯を前に少年は考える。愛犬は安楽死を望んでいるのか、いないのか。一人と一匹が迎える結末に閃光が走る「ノ・チャンソンとエヴァン」。キム・エランの才気を確信する一篇となった。文学の世界に日韓の壁は存在しない。2019/07/27