内容説明
衝撃の作家デビューから国会議員、そして都知事へ。昭和から平成にかけて、その男は常に「戦後」の中心に居続けた。彼はいかにして大衆を味方につけたのか?一人の戦後派保守の歩みから、戦後日本社会の光と闇を映し出す画期的論考。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ま
17
本当は刹那的な生き方をしたいが知性がそれを許さない。「挑戦」を記しての世間の反応を見て、間違っているのは世間だというところがこの人らしい気がする。戦後と寝た男。しかし筆者は著書や言動から人物像を読み解く力がすごいな。2021/09/21
かんがく
11
戦後思想を名乗るシリーズだが、石原の無思想性を指摘。盟友の江藤淳の論を利用して彼の行動を「ごっこ」であるとする。短い本なのでほんの概略だけだったが、戦後日本の象徴として石原を捉えられた。2020/11/18
田中峰和
8
不良の弟裕次郎の自慢話に尾ひれをつけて書いた本が話題になり、芥川賞作家となった慎太郎は、デビュー作を超える作品もなく話題の人であり続けてきた。戦後派保守の立ち位置を仲間から批判され、全身全霊を打ち込み描いた作品「挑戦」は全く受け入れられず、作家として挫折。ベトナム戦争を目の当たりにし帰国後、2か月の入院を機に石原は、政治家になることを決断した。「NOと言える日本人」はアメリカに認められたいという願望の裏返し。アジアとの良好な関係も築けず孤立する日本の戦後は、石原慎太郎の人生そのまま。老人の末路は寂しい。2020/01/26
ふみあき
6
非常にコンパクトな石原慎太郎論。一日で読み終わる。石原自身を代表とする「太陽族」によって体現された、戦後に穿たれた「無恥と無倫理」という空隙を、彼は民族や国家によって埋めようと、作家から政治家に転進する。このような「再帰的ナショナリズム」は、石原以後も「戦後派保守」に脈々と受け継がれている。例えば、援助交際や猟奇的な少年犯罪などのモラルハザード、そしてカルト教団との思想的闘いを経て、戦後民主主義に絶望した挙げ句、国粋主義やロマン主義に飛びつき『戦争論』を描いた小林よしのりに見られるように。2020/05/06
yu-onore
2
戦後の未成熟を体現するようなところがある、政治家として実績を残さないままにナショナリズムとごっこ的な行動をとった政治家・石原慎太郎について。文学にも(彼が憧れ描き、一致しようとして失敗したような太陽族のように)肉体にも満たせなかった戦後にもたらされた自らの(戦争の喪失にも関わる)空虚を、政治、それも右派的なものを通して満たそうとすること。2022/02/04