内容説明
「円朝の落語通りに書いて見たらどうか」と助言された二葉亭四迷は日本初の言文一致小説『浮雲』を生んだ。初の女流作家田辺花圃と同門だった樋口一葉は、最晩年に「奇跡の14ヵ月」と呼ばれるほどの作品を遺した。翻案を芸術に変えた泉鏡花と尾崎紅葉の師弟。新聞小説で国民的人気を得た黒岩涙香と夏目漱石。自然主義の田山花袋と反自然主義の森鴎外。「生活か芸術か」を巡る菊池寛と芥川龍之介。12人でたどる近代文学史。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
63
読み物として面白い。このように、作品と作家との間を埋める多彩なエピソードをメインとした本が増えて、昔の小説に小さなブームが起こってくれないかなと思っている。言文一致のルーツを円朝の落語に求める文献は、初めて読んだはず。2019/08/28
trazom
44
2人ずつをペアにして12人の文豪が描かれているが、このペアリングと論点が絶妙で、数多くの気付きがある。二葉亭四迷の言文一致の原点は三遊亭円朝の怪談。極めて日本的な「金色夜叉」や「高野聖」が、ともに海外の物語の翻案? 新聞を切り口にして夏目漱石と黒岩涙香を論じるのもユニーク。一方、従来、対立的に捉えられる田山花袋と森鴎外の共通点も浮き彫りにする。この著者は初めて読むが、文豪たちへの深い愛情と理解を感じることができ、温かな気持ちになれる。だから、読後感が、こんなに清々しくて幸せなんだ。とてもいい本だと思う。2019/10/16
terve
26
非常に面白い本でした。名作を生み出す根底には共通の精神があったり無かったり…ですが、そこには確実に背景があるということですね。文士たちはお互いに交流もあり、三遊亭円朝と二葉亭四迷の奇妙な共通点や夏目漱石と黒岩涙香のスタンスの違いなど、着眼点も興味深いものが多かったです。芥川の死は多大な影響を与えたようで、多くの文士がその死を悼んでいたようですね。それもまた、文学の側面なのでしょう。2019/08/24
yamahiko
23
事実を独自の視点で腑分けし、読ませる文章に仕立てていると感じました。文壇という捉えどころのない集団の萌芽を知ることができたことも収穫です。2020/01/13
蛸
19
近代日本の文豪十二人を、二人一組でそれぞれ一つのテーマを切り口に紹介している本(「言文一致」をテーマにに二葉亭四迷と三遊亭円朝を語る、と言った具合)。個々の作家の生涯、そのパーソナリティを伝える印象的なエピソード、作品の特徴などがバランスよく描かれていてとても読みやすい。読むと文豪たちと自分の距離が縮まったような気がして自然と作品を手に取りたくなる。その意味でとても良い入門書。いろんな作品が紹介されてるけど『金色夜叉』の「美しく洗練された」文章をまず味わってみたくなった。 2020/05/21