内容説明
黄昏の東京――。鞠谷雛子は、周防馨は、電柱の陰の、交差点の向こうの、ふとした廃墟の様相に“死者”を見る。東京の街で“死者”が増殖し始めたのは、CRISISのヴォーカリストにして両性具有と噂された、美しくも妖しいチェシャが自殺してからのこと。“死者”たちが引き起こす恐怖は臨界へと達し、やがて世界はあまりにも絶望的な相貌を見せ始める――前世紀末、読書界を震撼させた津原泰水の更始作、ついに復刊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
南雲吾朗
52
おじさんの視線から見ると、今の渋谷とさほど変わらない状況が描かれているように感じた。混沌とした街。2020/03/24
あたびー
42
先日お亡くなりになった津原泰水氏を悼み、未読だった本書を読んだ。ロックバンドCRISISのヴォーカルチェシャの自死を発端に都内に原因不明の死が多発し、視える少女磬はそれを幽霊ではなくゾンビでもない「死者」の起こす禍と理解する。渦中に大学生鞠谷雛子と知り合い、2人は否応なしに事件のまっただ中へ。途中で分かるチェシャの秘密。神話の解釈から導き出される雛子の秘密。中心とは無関係な場所で事態を俯瞰している少年の存在。混沌とした終わり方。恐らく時を置いて読み返さなくてはならないし、その時別の感想も有り得る作品。2022/10/23
hanchyan@連戦連勝の前には必ず負けがある
40
名人上手の噺家さんが、十八番の怪談を披露する語り口のような、といえばよいのだろうか。よく知った筋立てであっても、ここぞ!の場面では鳥肌を禁じ得ない、的な。小説ってストーリーのみにあらずだなあとつくづく思う。「語り口と筋立て」。あたかも「人馬一体」みたいだな(笑)。"死者”が跋扈する世紀末都市。幽霊でもゾンビでもないという存在はまさに正体不明=不安そのものであり、これはもうホントにコワい。底知れぬ闇に彩られた、残虐あり恐怖あり絶望あり、けれどどこか優雅な物語。とてもとてもとても面白かった。&ものすごく好き。2019/12/07
Shun
31
ホラーありの幻想小説といった内容。現代のネオン輝く大都市であっても廃墟然とした様相がそこいらの陰に存在するというコントラストが印象的で、ここに活動する”死者”という存在が一層闇を深くしている。物語の書き出しは「黄昏。たそがれー。」とあるように、冒頭から闇が深くなっていくことを強調する一文から入り、この物語の雰囲気が伝わります。読み通してみて、この作品が土台としている神話的な話にはいくらか読みなれない感はありましたが、一人の人間が男性性と女性性を有する存在という設定と神話とを絡めた考察は興味深く読めました。2020/01/18
JILLmama
29
津原泰水としての一作目を復刊したものだと。 泰水さんワールドは割と控えめで読みやすい。 バレエメカニックがぶっ飛び過ぎてて、途中であきらめたのです...いつかまた挑戦します。 両性具有とホラー、色んなものがごちゃまぜでグロい描写もあるのに、何故だろう品がいいのだ。 文章が綺麗。すーっと入ってくる。2021/02/05