内容説明
「残酷演劇」を宣言して20世紀演劇をかえていまだに震源となっている歴史的名著がついに新訳。身体のアナーキーからすべてを問い直し、あらゆる領域に巨大な影響を与えたアルトーの核心をしめす代表作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
松本直哉
26
舞台と観客がそれぞれ閉じられた空間で互いに行き来できないのを息苦しく思っていた私には、すべての仕切を取り払えというアルトーの考えは我が意を得たりだったが、お行儀の良い一般大衆はたじろぐだろうし、彼が狂人扱いされたのもわかる気がする。繰り返し主張されるのは書かれた言葉や台本への不信。観念の遊びや心理の描写に堕して凝り固まった言葉から解放して、ちょうど疫病のように、見る者の身体に直接的全体的に働きかける演劇を作ろうではないかという提案にぞくぞくする。2020/03/27
ゆとにー
14
隠喩に富んだ文体で難解だが、アルトーにおける残酷とは、血腥いスプラッタを必ずしも意味するわけではなく、生を決然と生き抜くそのことを言っているのだ。心理劇一辺倒に堕した西洋劇に、身ぶりや音響など演出に関わる要素を、語以外の記号的言語として持ち込み、分節言語の優位を転覆すること、そして総体的な言語の魔術的な使用によって実現される演劇が、根源的な生のイメージをもたらすことを説いている。言葉を並べただけで矮小化しているかもしれないが、こう見るとまともで、振り切れてしまう前のベースラインに立ち会った気がする。2019/11/20
またの名
10
ペスト感染により小国が荒廃する夢を見て大型船グラン・サン・タントワーヌ号を追い払う命令を出したサルデーニャ王代理の、ペストに対する戦争。文字言語の極限を超えようとするアルトーは、感染した死体を弄ぶ好色漢が生かされ禁欲家が近親者を犯し戦争の英雄が命懸けで救った町を焼き払う例外状態において死の伝染病が潜在的に眠っていたアナーキーを呼び起こすのと、演劇がイメージや象徴を借りて人々の中に潜伏する残酷の黒い力を押し出すのを類比。「それは人間たちにあるがままの姿を見させ、仮面を剥ぎとり、嘘や無気力や下劣や偽善を暴く」2020/03/21
メルキド出版
6
「序 演劇と文化」「演劇とペスト」2020/02/29
Bevel
4
「どうやらこの画家は、線の調和に関わる秘密に通じていて、この調和を直接脳に身体的反応体として作用させる手段を知っていたらしい」。絵画がもつ言語以前の作用こそアルトーが言う「形而上学」的なものである。現代において演劇が扱うべきなのはこのような「形而上学」的なものであり、それは「話し言葉」に還元されない「舞台の具体的で身体的な言語」、「感覚のための言語」、「本物の象形文字」である。2020/01/08