内容説明
イスラーム世界はいま激しく自己を主張しているが、それらの動きがどのような精神的基盤に支えられているのかは明らかではない。本書はイスラーム的思惟の一つの根元的形態を、「存在一性論の形而上学」として捉え、その理論的構造を分析する。この形而上学に結晶しているものは一神教イスラームに独特の思惟形態であるが、同時に東洋の哲学の基本的パターンでもある。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
52
イスラム神秘主義哲学についての本。本来、禁欲苦行の実践道で、思想としても情緒的だったスーフィズムが、アヴェロエスなどを通して新プラトン主義を受容、混淆・融和して「真にイスラーム的といえるような哲学」となったことをはじめ、代表的思想家イブン・アラビーの存在一性論を通してその思想的特徴も提示してくれます。仏教やヴェーダーンタ哲学との比較などもあり、好奇心を様々に刺激されました。収穫だったのは、観想の方法・段階について具体的に示してくれていたこと。イスラム神秘主義文学を読む時に指針になってくれそうな一冊でした。2019/10/11
ころこ
34
70年代後半にイスラム教に興味を持った人達は、どんな人達なのだったろうかと気になります。恐らく、知的関心が旺盛で、かといって高度成長後の社会の歪を真に受けて不安を感じたところから、西洋でもない日本に通じる東アジア文化圏でもない思想にその突破口があるのではないかと期待した人達だと推測します。信仰の無い思想として宗教をみる場合、地元民が土足で上がり込んできた無頓着な観光客を冷ややかな目で見張っており、何が問題かは分からないが、その冷ややかな視線だけは感じる観光客であるという自覚は忘れないようにしたいです。2020/08/24
Cambel
28
『こころの読書教室』で意識〜無意識の階層の話があり、本書を薦めていた。その該当部分だけ読む。イスラム神秘主義的な考えでは、意識は5階層になっていて、上から下の層に深くなるにつれて自我意識が消滅していき最後は無に帰する。仏教の唯識にも似ているが、唯識は煩悩の働きを構造化したモデルなので、神秘主義とは異なる。この章を理解するのに必要な箇所も拾い読みしてみたが、私には宗教の話は難しくて理解できない。。。でも、このように学問として理論立てて説明してくれるのは、ありがたい。2017/05/28
きょちょ
19
意識と無意識を5層に分けて解説していると聞いて、興味を持ち購入。 仏教の「唯識」に似ているが、最深部の層は、明らかに「唯識」とは異なっている。 「唯識」をしっかり理解しているわけではないけれど、どちらかと言えば「唯識」の方がしっくりくる。 この本に出てくるイスラムの神秘主義と哲学は、当初大きく反発しあう間柄で、様々な糾弾やもめごともあったそうだ。 しかし、これらもイスラムの神秘主義と哲学のごく一部であって、その全て、もっと言えばイスラム社会をしっかり理解することは、私には難しすぎる・・・。 ★★★2016/08/03
Gotoran
14
本書は、イスラーム思想及び言語哲学の世界的権威の著者の三つの講演がベース。一見、口語調で読み易いが、中味は深く、一読程度では概要把握に留まる。イスラーム思想史において、13世紀の神秘主義(スーフィズム)と哲学の合流・融合から、アヴェロイスとイブン・アラビー~スーフィー的深層意識と唯識的深層意識への言及、加えてイブン・アラビーの「存在一性論」を中心に、意識と存在についての奥深い考察がなされている。難解ではあるが、ギリシャ哲学、或いはインド哲学、禅、道教、儒教、老荘等の他東洋思想が引合いに↓2012/04/01
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