内容説明
戦争責任ははたして軍部だけにあったのか? 天皇と側近たちの「国体護持」のシナリオとは何であったか? 近年、社会的反響を呼んだ「昭和天皇独白録」を徹底的に検証し、また東京裁判・国際検察局の尋問調書など膨大な史料を調査・検討した著者は、水面下で錯綜しつつ展開された、終戦工作の全容を初めて浮き彫りにする。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
樋口佳之
40
つまり、統治の根拠を「血の正統性」に求めることができない以上、皇位の継承を象徴する「三種の神器」の保持に固執せざるをえないという関係が成立しているのだ/この感覚はその後の方々に引き継がれているのかいないのか。2020/03/28
禿童子
38
再読。終戦直後の退位論が近衛文麿や皇族、木戸など宮中グループ内部からも出ていた。国体護持の考え方には、占領終了後に天皇が自発的に退位して国民に対して責任を取るという木戸のような発想もあった。重臣・宮中グループによるGHQへの働きかけ、東京裁判で陸軍側被告への責任の押し付けによる天皇不起訴に誘導する日米両方の工作を明らかにする。独白録から浮かび上がる昭和天皇の人間性に触れる後半部も興味深い。天皇中心の「穏健派」保守勢力が戦前から戦後まで「連続」しているという著者の見立てには強く共感する。2020/01/31
しげ
28
本書が世に出た頃、バブル崩壊や湾岸戦争が有り世界から国際貢献を求められ出した時代、是非は兎も角としてもそれまでタブーとされていた様々な事が論じられる様になった頃と記憶しています。「天皇独白録」がメディアを騒がせたのも記憶には有りましたがTVの報道特集で断片を見た程度でした。大戦前夜を知る事と現状のロシア侵攻を対比する意味でも読んでおきたいと思いました。2022/11/27
Michael S.
16
アジア・太平洋戦争の敗北に際し,大日本帝国の支配者たちは,敗戦責任をできるだけ少数者に最大の責任を押し付けて損切りしたいと考え,占領統治するアメリカ側は,きたる冷戦に備えて日本を反共の橋頭堡としてできるだけ円滑に占領統治を完成し自陣営側に組み込むために天皇制を利用しようと考えた.昭和天皇の免責は両者の思惑の一致の結果であった.この本は,東京裁判で昭和天皇が訴追を免れた過程の詳細な記録と,戦後日本の支配層の起源について実証的な記録である.憲法が変わっても人間までは入れ替わっていないのである.超オススメ. 2021/05/16
SOHSA
15
昭和天皇独白録を中心に据え、戦中戦後の軍部、政府、宮中、GHQの状況を踏み込んで解説している。特にポツダム宣言受諾後の連合国側による戦争責任の追及をめぐる攻防は、迫力があった。本書で述べられている現行憲法制定の背景と経緯は、現在、安倍政権が目指している憲法改正の是非を考える上でも大変参考となった。2013/06/14