内容説明
粉ミルクのように有効な代替品がない江戸時代、赤子にとって“乳”は大切な命綱だった。母親の出産死や乳の出が悪い場合、人びとは貰い乳や乳母を確保するために奔走した。生活のため乳持ち奉公に出る女性、長期間乳を呑んでいた子どもの声、乳と生殖の関係などに迫る。乳をめぐる人の繋がりを探り、今、子どもを育てるネットワーク形成の意味を考える。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
小鈴
27
江戸時代に「母乳」という言葉は出てこない。人の乳、女の乳と呼ばれ「母親」限定ではなかった。出産での母親の死亡率の高さ、生存できても乳が安定して出るわけではない。授乳には階層差があり農村では共同体から貰い乳、武士層では乳母を雇い赤ちゃんの命をつなぐ。都市では乳母奉公するため我が子を人に任せ金を稼ぐ手段となった。「乳」は商品になった。乳を巡って夫も奔走し、下層武士は現在の育メン以上に過酷だ。近代化で少産少死社会となり、乳を巡るネットワークが失われ乳は交換可能なモノから母親限定に。乳は家庭に閉じ込められた。2017/02/18
シルク
12
2019年正月に読んでた本。この年末年始は、本が足りなくて「ゲッ」と焦った休暇だった。30日に仕事おさめで、その後京都の宿に飛ぶ。4日まで年末年始休み♡ なのだけど、鞄に入ってた本はひいふう……4冊。ゲッ、これ絶対足りない。「いざとなったら〇ックオフに行けばいいさ」とか思ってたけど、パッと入ったブックオフに、わたくしのその時読みたい本なんて1冊も無かった。小説とかじゃねーのよ……なんか食べものの歴史関係とかそういうのが読みて~のよ……しかも、出典がまともに書いてないようなのは基本的に好みちゃうねん……と。2019/01/01
二人娘の父
8
性からよむ江戸時代――生活の現場から (岩波新書)の著者が、「乳=生き残るための食」を通じて、江戸の子育て事情を明らかにする。生命資源としての「乳」が貴重だった江戸時代、階層や地域によって、命の重みに格差があったことも明らかになる。また封建制のもとで女性が生命を生み出すための「機能」として過酷な状態におかれていたことにも、著者の視点は注がれる。エピローグで述べられているように、先人たちがつないできた命の重みを本書からしっかりと読み取ることが、現代社会を生きる私たちへのメッセージともいえる。2023/01/26
mogihideyuki
7
江戸時代の史料には「母乳」という語は存在せず、明治期の徹底した生命管理体制の中で出現したという。江戸までの多産多死を共同体で支えるあり方から、明治以降の少産少死を国家と医学が管理する体制へと移行するために、母性信仰がつくられた(そこで父親は子育てから排除される)。また、江戸時代の授乳期間は3〜4歳までと非常に長く、これは避妊のためと考えられる。乳が出なければ近隣で貰い乳をし、それでも養えなければ下層農家では武家屋敷の前などに捨てて養育を託し、上層農家や武家では乳母を雇った。2017/12/19
みなみ
7
江戸時代に「母乳」という言葉はなかった。もらい乳や乳を他人の子どもに飲ませる乳奉公が当たり前だったからだ。また農民の女の授乳回数からは過酷な労働が浮かんでくる。乳を飲ませないという形の間引き、捨て子は非人の子ではないかという差別構造。社会の暗部も『乳』から浮かび上がってくる、深い内容の本だった。2017/06/11