内容説明
日本の古典文学を愛する一方で、常に現代文学の目撃者たらんとしたドナルド・キーン。深い愛情と冷徹な眼差しが同居する特異な批評精神を発揮し、日本文学を世界文学の域に高めるべく巨大な足跡を残した。『細雪』の秘密を語る谷崎の思い出。川端の前衛主義者としての意外な横顔。自決直前の三島から受け取った手紙。安部や司馬とののびやかな友情。珠玉の追想集にして稀有なる文学論。(解説・尾崎真理子)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
74
川端康成の頁を参考にするつもりでいたが、ほかの作家の項目も興味深かった。私が完全に読んでいないのは安部公房だけだと思う。戦後これらの作家と親しくなさっていたことに幸運と出会いの才能のようなものを感じるし、ただただうらやましい。キーン先生はまだなんとなく生きていらっしゃるような気がします。2019/05/23
コットン
73
玄趣亭さんのオススメ本。アメリカの日本文学者の著者による親しい作家たちへの独自な目線による評論。特に谷崎潤一郎の男嫌い・女好きな所。その当時のアカデミー賞における三島由紀夫と川端康成の話。作家であり劇作家でもあった安部公房の演劇が文学的ではない戯曲へ関心を強め、台詞にたよるところが極めて少ない形となり海外公演も進出していたのは興味深い。2020/07/04
buchipanda3
72
日本文学者である著者が個人的に親しくしていたという五名(谷崎、川端、三島、安部、司馬)の作家について語っている文学論。当人たちとの付き合いの話から入るため、とっつきやすいし文章も読み易く面白く読めた。著者の視点から見た各人の人柄、作家としての才能、考え方、各作品に込められた意図の読み解きなど興味深い話ばかりが詰まっている。川端と三島の関係、谷崎の作品の変遷などが印象的。どの作家も当時の時代の中をどう生きたかまでを知ることができたのが良かった。著者の日本文学への敬意と真摯な評論の意思を感じさせる作品だった。2019/06/09
penguin-blue
43
日本文学を愛し、実際に多くの作家との交流があったことで知られるキーン氏がその中でも特に親交厚く、思い入れ深い5名の作家を取り上げた著作。彼らとのエピソードや書簡を中心にした随筆と思い手に取ったが、その著作に関する非常に真摯な文学論も興味深い。司馬氏を除き、他の4氏の作品は未読のため内容を評することはできないが、彼らと彼らの著作にに対するキーン氏の深い尊敬と愛情が感じられる。もちろん実際の交流の部分も興味深く、特に自死を選んだ川端と三島に対しては繰り返し、その死の理由と意味とを考え続けて来られたのだろう。2022/02/04
獺祭魚の食客@鯨鯢
35
司馬遼太郎氏について、キーン氏はこれ程の国民的作家が、国際的な評価が不当に低いことへの述懐です。 まず谷崎潤、川端、三島と比べ、翻訳作品が少ないこと。三人の作品を通し海外は日本の美意識、富士山・芸者、葉隠れを知り同時に作者の知名度も上がった。司馬氏は大村益次郎のような英雄肌ではない奇人を作品化し国内の歴史愛好家には受けるものの外国人読者には深すぎて味わえなかった。 キーン氏の司馬史観への崇敬は彼だからこそあり得ました。司馬氏の日本精神の基層・古層を抉る洞察は分かる人だけ分かれば良いと思っています。2019/05/22