内容説明
新聞社の永岡は、妻の櫛がヒマラヤの国パスキムの破壊された仏像の一部と気づく。5年前入国した首都カターで見た美麗な仏像彫刻だった。美術品持ち出し禁止の国で政変のため寺院が崩壊したと聞いて、密入国を試みる。僧侶達は虐殺され都市は壊滅していた。彼も革命軍に捕らえられ…。旧習を打破し、完全平等の理想郷を求める人間達のもたらす惨劇。恐怖と戦慄の世界を臨場感豊かに描く畢生の大作。
目次
弥勒
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜長月🌙@読書会10周年
73
新しい国家を生み出そうとする壮大な物語でした。読み応えがあります。理想的な国家を創ろうとする時に目指すべきはどのようなあり方でしょう。今の世界には多くの資本主義国家と一部の共産主義国家があります。しかし国のあり方はまだまだあります。みんなが平等で幸せを感じられる無所有・完全平等・国家とは幻でしかないのでしょうか。物質文明よりも尊重されるべきは精神性かもしれません。理想の前に立ちはだかる絶望的な矛盾を臨場感を持って味わわせてもらいました。2021/03/23
Shun
30
新聞社に勤める主人公は社交場で妻が挿していた櫛に違和感を覚え、それが持ち出し禁止のはずのヒマラヤの小王国パスキム独特の仏像彫刻であると確信する。この出所を探り以前訪れたかの国で政変があったと知り、仕事を離れ一人密入国を試みる。そこで行われた弾圧はノンフィクションとも遜色のないリアリティで描かれます。理想主義のインテリによる変革は様々な矛盾や歪みを孕み、次第に地獄の様相を見せ、パスキムという架空の国を描きながら、国王を始めとした階級制度の否定や宗教の否定、そして文化の破壊について幅広く考えさせられました。2019/11/15
空のかなた
25
700頁を超える厚みにたじろいだが、すさまじい密度の一冊。タイトルの「弥勒」には様々な意味やシーンが絡んでいる。美術品展の企画を仕事とする主人公の永岡は、最初は地に足がついていないような薄っぺらい人格だったが、仏教文化に惹かれ、内乱まっさかりの小国バスキムに侵入し捕虜となってからがドラマティックな展開へ。過酷な強制労働と強制結婚にも関わらず、愛した女性の死。永岡の精神性がなんとしても生き延びるのだと研ぎ澄まされていくとともに、死んだ後の身体はただの物体と化すという体験と仏教と解脱。人が最後にすがるものは…2025/03/28
えみ
25
あまりにも圧倒され過ぎて、感情のコントロールが効かなくなってしまったみたい。たった二文字「救済」の言葉、その意味に打ちひしがれて最後は訳もわからず泣きながら本を閉じた。今ここで本を読んで感動できる暮らしをしている幸せをもっと噛み締め大切にしたいと思わずにはいられない。政変で殺戮が繰り返される仏教美術の国・パスキム。そこで革命軍に捕らえられた永岡は戦慄の世界を目の当たりにする。今この状況が辛いと思う状況を、幸福と感じる人が確かに存在する。完全平等の社会、理想郷を求める人が行き着く先には…。恐怖と衝撃の大作。2019/08/25
えりまき
19
2020(205)今までにあまり読んだことのない内容でした。衝撃的。読んで良かったです。パスキムでの戦慄の日常。美しい美術品と反した、人々の貧しい生活。今、この時もどこかの国でこんな事があるのでしょうか。パスキムで捕虜になったジャーナリスト永岡英彰。パスポートを捨てられ、言葉が通じない村で、強制労働を強いられる。国民を強制労働と学習で教育して、歯向かう者は殺し、理想国家を作る。集団強制結婚で夫婦となったサンモとの生活。パスキムから脱出後の続きを読みたい。2020/08/29
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