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内容説明
「女房を殺して、捕まえてもらいに来た」と市長宅に押しかけた男。その場に居合わせた作家デュマや市長たちは、男の自宅の血塗られた地下室を見に行くことに。男の自供の妥当性をめぐる議論は、いつしか各人が見聞きした奇怪な出来事を披露しあう夜へと発展する。本邦初訳!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
146
デュマが小説の中で語り手となる百物語。身体から離れた首は、語るか否か。悪霊が取り憑くのであれば、死神や天使、神もまた存在するのか。各々が語る話は、誠か嘘か。嘘なら、誰が一番上手いペテン語りか。もしくは一人くらいは事実語りか。泥棒と神父の話は、真であってほしいもの。舞台の時代が、第二共和政の頃であるために、1789年後の革命後、いかにギロチンが休む間もなく使用されていたかを揶揄しているようであるし、また19世紀のポーランドの受難も読み取れ、この時代の歴史的背景を知っていれば、理解がさらに深まる。 2019/06/23
のっち♬
136
市長の食卓に招かれた人々が語り合う亡霊にまつわる奇怪な見聞。著者が幼少時愛読した『千夜一夜物語』に則した構造を持ち、悪魔や吸血鬼や死後の生などが扱われる幻想譚。処刑後の生命持続に対する執拗な論考には当時の彼の関心が現れている。長年に渡る放浪で触れた数々の伝承もふんだんに散りばめられており、史実を絡ませながら恋愛や陰謀や決闘を随所に盛り込む様は著者の面目躍如だろう。そこには貴族的な風雅さに対する彼の憧憬や政治的見解も窺える。「息絶えた社会」や「いなくなった人間たち」への追憶の念が漂う、雅びにして幻妖な一冊。2021/05/20
藤月はな(灯れ松明の火)
97
稀代のストーリーテラー、アレクサンドル・デュマによる、フランス革命という時代の波に翻弄された者たちを巡る怪奇譚集。同時に革命後、非業の死や蔑みを与えられた王族や貴族、そして唾棄されて失われつつあった優雅な文化を悼む気持ちに満ちた作品でもある。とは言え、最後の四篇は完全に別物です。もしかして、この四篇はメリメへのオマージュでもあったのかしら?それにしても怪奇小説での「切断した首でも傷口が何らかの形で塞がれば喋ることができる」の元ネタはこれだったのか!2019/10/12
nuit@積読消化中
93
デュマが怪奇ものを書いていたなんて…!とても贅沢な時間を過ごさせてもらいました。個人的には「サン=ドニの王墓」が好き。全体通してすごく好きな世界観です。しかしなにより、あとがきでデュマのことを色々知りました。思っていた感じの方とは違い、なんとも生涯破天荒な生き方をされた方だ。だからこその傑作が書けたということなんですね。余談ですが、まさか『椿姫』のデュマは愛人にうませた息子さんの方でしたか…。2019/10/17
sin
80
風景描写を入口とした語り口からほんの数頁で異国の景色が拡がりをみせ始める。未だ見ぬ仏の田園風景だがその麗らかな背景の下には純然たるオカルトの歴史が潜んでいる。その革命時代は人道的処刑具ギロチン所謂断頭台を発明し、そのお手軽さからか、或いは民衆本来の残虐性からか、次から次へと犠牲者を送り込んでいった。落とされた首が意識を保持していると云う語りは受刑後瞬きで質問に答えた実験でも明らかであるように人道的とは御為ごかしに過ぎない…自由は平等を強いて迫害を加える。最後に吸血鬼はまさしく瑞々しい死体から連想された。2019/08/23