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内容説明
青年貴族のフランシスは、社交界の花形ドルジェル伯爵夫妻に気に入られ、彼らと頻繁に過ごすようになる。気さくだが軽薄な伯爵と、そんな夫を敬愛する貞淑な妻マオ。フランシスはマオへの恋慕を抑えきれず……それぞれの体面の下で激しく揺れ動く心の動きを繊細に描きとった至高の恋愛小説。従来の訳はすべてコクトーらが修正を加えた「初版」の翻訳であったが、今回は作家の定めた最終形「批評校訂版」を底本とした初の翻訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
マリリン
46
繊細な感性が揺れ動く心を緻密に語る極上の恋愛小説。自身の魂が剥離し醒めた視線で情景を眺めているような。ドルジェル伯夫妻もフランソワも...人物像はその視線を通して視たものなのか。他人を支配したがるアンヌと(実際感じていない感情しか上手く表現できない...二度登場する言葉の意味が深い)マオとフランソワの繊細な想いの交錯との対比が絶妙。純粋な魂が無意識に弄する奸計...残念だわ、あなたが同じ趣味を持っていないのは... 意識的を感じさせない凝った構成を感じる作品は、再々読したい。初読は別訳で6年前。 2022/01/10
ころこ
42
「つまり恋愛をすることで人間の心の、すごい繊細な部分で相手の心の繊細な部分と向き合うわけじゃないですか?だからまあ、人間を知り合う。人間とはこういうものだ、ということを勉強するというか学び合うというか。そういう機会にはなりますよね。恋愛というものは」福山雅治が最近言った言葉で、まさにこの通りだと思う。小説に恋愛を描くということはどういうことだろうと考えた場合、小説に殺人を描くということはどういうことだろうと同時に考える。被害者を良く描写する。証拠の鑑定をする。関係者から被疑者を推定する。因果関係を整理する2022/11/27
燃えつきた棒
41
「天才ラディゲの遺作『ドルジェル伯の舞踏会』、初めて邦訳された「最終形」の秘密 訳者・渋谷豊さんを迎えて」のイベント※1に参加するために読んだ。 本書は、ジャン・コクトーらが作者の死後に手を加える前の、ラディゲ自身の手になる最終形を訳出した本邦初の訳。/ 《作者のレイモン・ラディゲは、1903年生まれのフランスの小説家、詩人。代表作は、処女小説『肉体の悪魔』と、次作で遺作となった本作。1923年、腸チフスで20歳の短い生涯を閉じる。》(ウィキペディアより)/2021/08/26
shikashika555
39
フランソワとマオの心情の揺れや高揚の細かく丁寧な描写が、この作品のひとつの見どころなのか。 著者の10代での作品であると思えば素晴らしいものであると思う。 でも全体を通じて、どうも迂遠しており 言葉に保険をかけすぎているような よそよそしさも感じる。 なんなんだろう。 恋情は第三者の態度の模倣から生じる…みたいな世界観が、私にはあまりに狭量に思えた。 そんな形で生まれる恋情が、世の真理であるとするその視座が「厨二病」みたいに思えちゃった。ごめん。 いや、これはこれでアリと思うけど。 2020/04/10
ぺったらぺたら子
27
「アンヌという人は実際には感じていない感情しかうまく表現できないのだ。驚きが治まってから彼はようやく驚いたふりをした。」この分析の見事さ。義務を果たすことを第一義とする階級における、人間性の疎外。欲は常に制御され、義務に沿う形へと変換される。感情と感情表現の乖離。自己は遠ざけられ、その在り処や存在すること自体をもはや本人が自覚していない。本心というものが、本人にはもう見えないのだ。そんな中、マオとフランソワの改竄された欲求は次第に真の姿を表し、恋の破壊的な純真さによって、自分自身との邂逅を迫られていく。2021/06/10