内容説明
昆虫文学を通して見えてくる人間の姿。
「蚊帳やめてわずかな手間のその楽さ」
「蠅は逃げたのに静かに手を開き」
これらの川柳は、昭和を生きた方なら実感をともなって理解できるでしょう。人間はつい最近まで昆虫とともに暮らし、その美しさに感動したり生態に驚いたり、またカやシラミなどに悩まされてきました。
しかし都市化が進んだ現代日本では、虫を生活から排除し、いても気づかない存在になりました。
まず本書は、古今東西の人間と昆虫との長いつきあいを、文学を通して確認します。
エピソードのひとつを紹介すると、中国の古典『詩経』に、ハチはイモムシを狩って自分の子どもにすると書かれています。日本では「我に似よ、我に似よ(似我似我)」と聴きなし、その虫をジガバチと呼びますが、実際はイモムシを麻痺させて幼虫の餌にするのです。このような誤りが東アジアでは数千年も信じられ続けたのはなぜか、そこに筆者は「人間」の生態を見ます。中国の官吏登用試験である科挙では、先哲の書いたことを決して疑ってはいけなかった、その影響と考えます。
中国や日本、西欧の古典から、現代文学まで渉猟し、虫に関わる箇所を抜き出し、人間とは何かを考察するエッセイです。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Susumu Kobayashi
7
フランス文学者で虫に造詣の深い著者が世界中の虫に関する文章を渉猟して編んだアンソロジー。昆虫採集について:「寺田寅彦は「鋭い喜び」と言い、ヘルマン・ヘッセは「繊細なよろこびと、荒々しい欲望の入り混じった気持」と表現した、少年の頃に味わう、このような真の興奮こそが、科学者を作り、詩人を育てるのである、と私などは考えているけれど、そんな話はだんだん通じなくなってきている」(p. 48)。なお、カヴァーはストランド誌に掲載された『バスカヴィル家の犬』のシドニー・パジェットによる挿絵。2019/10/26
ミミミ
4
学者って引き出し多くて楽しそ〜2020/02/24
ishii.mg
1
TVでは牧野富太郎がドラマになりブームのようだが、虫博士はドラマになるだろうか。古今のブンガクから虫の記述について取り出して紹介。そこは文学者であり虫屋である著者の独壇場である。虫愛ずる姫君は原本読んでみたいところ。近代的な知性を感じる。2023/09/27
藻波
1
北杜夫とのエピソードが楽しそうで羨ましい。映画とかに出てくるチョウの種類を特定しようとするあたり研究家根性?がうかがえる2020/11/05