日蓮主義とはなんだったのか 近代日本の思想水脈

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日蓮主義とはなんだったのか 近代日本の思想水脈

  • 著者名:大谷栄一【著】
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  • 講談社(2019/08発売)
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  • ISBN:9784065167687

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内容説明

【担当編集ノート】本書の著者の大谷栄一さんは近代日本における仏教と社会の関係、なかでも「日蓮主義」が果たした役割を若き日から30年近く精力的に研究してきた方です。そのお仕事をこのたび大部の著作にまとめるお手伝いをするにあたり、編集者として感じたことを以下に記し、「刊行の主旨」「内容紹介」に代えるしだいです。明治以降、内村鑑三、高山樗牛、宮澤賢治や北一輝などの思想家や文学者、満洲事変を主導した石原莞爾、血盟団事件の指導者・井上日召、「死なう団」の江川桜堂、創価学会創設者の牧口常三郎、新興仏教青年同盟の妹尾義郎など、さまざまな分野の多彩な人物が日蓮に傾倒しました。作家にして浄土宗僧侶だった寺内大吉はその著書『化城の昭和史』において「極右テロリズムから左翼の守備範囲へまで浸潤できる日蓮思想……」と述べているくらいです。いったい日蓮のどこにそんな魅力があるのか? また多くのインテリの心をとらえた親鸞に比してなにが違うのか……? 帝国日本の勃興期にあって日蓮の「思想」をイズムとして編成することに成功した二大イデオローグが、国柱会創始者の田中智学と顕本法華宗管長で統一団を結成した本多日生でした。二人とその支持者はいったいどのような国家像と社会のありようを求めていたのでしょうか。必ずしも日蓮主義はファナティックなものではありません。もともとそれは法華経を文献学的に吟味することを認め、同時に教義に基づいた個々人の純粋な信仰(belief)を重視する点できわめて近代的、ある意味でルター的プロテスタンティズムに近いものであるとさえ言えるでしょう。内村鑑三の信仰がJesusとJapanという「二つのJ」に支えられたものであったように、やがて日蓮主義の信仰はNichirenとNipponという「二つのN」の一致にこそ全世界を救う道があるという確信にいたります。智学・日生以降の世代においてその回路がテロリズムや東亜連盟、仏教社会主義などのさまざまなかたちで「国家社会のあるべき姿」として「模索」されるのです。いずれにせよ日蓮主義に顕著なのは強烈な「現世性」「此岸性」「能動性」です。仏国土はこの地上にあり(娑婆即寂光)、人はそのために生きねばならない。あの林先生ではありませんが、「仏の国は、いつ、どこに?」と自問して「今でしょ! ここに造るんでしょ!」と奮闘していくのが日蓮主義者であると言っていい。その延長線上に敗戦後の創価学会の大躍進、公明党の結党が見えてくるでしょう(じつは田中智学も立憲養正会という政党をつくり、挫折しています)。つまり「日蓮主義」はいまでも生きているのです。本書は現代日本にまで伏流する思想水脈を問う渾身の一冊です。

目次

序 章 近代日本と日蓮主義
第一章 田中智学と日蓮主義の誕生
1 明治政府の宗教政策と日蓮教団の動向
2 在家にして祖師に還る
3 『宗門之維新』
第二章 本多日生の積極的統一主義
1 若き改革派
2 近代的教義の追求と雑乱勧請停止
3 四箇格言問題から統一団
第三章 高山樗牛の日蓮論
1 個人と宗教
2 国家を超越する真理
3 煩悶青年の受け皿
第四章 仏教的政教一致のプログラム
1 法国冥合
2 八紘一宇
3 日露戦争と宗教
第五章「修養」としての日蓮主義
1 日露戦後の社会危機
2 大逆事件の衝撃、国体の擁護
3 明治の終焉と日蓮主義
第六章「日蓮主義の黄金時代」と日本国体学
1 多様な展開
2 統一団と国柱会
3 国体の宣揚、国民の教化
第七章 石原莞爾と宮沢賢治、そして妹尾義郎
1 国体と予言と
2 更に国土を明るき世界とし……
3 仏陀を背負いて街頭へ
第八章 立正大師諡号宣下と関東大震災
1 大正十一年十月十三日
2 上行のアドヴェンティズム
3 震災後の思想状況
第九章 観念性への批判、実践の重視
1 第一世代の栄光と黄昏
2 マルクスか、日蓮か
3 満洲事変
第十章 テロルの宗教的回路
1 赤色仏教
2 井上日召という男
3 血盟団事件から五・一五事件へ
第十一章 攻撃される日蓮主義者たち
1 天皇機関説をめぐって
2 二・二六事件と「南無妙法蓮華経」
3 曼荼羅国神勧請不敬事件
第十二章 理想はどこに
1 新興仏教青年同盟への弾圧
2 日中戦争
3 東亜連盟論
第十三章 アジアへ、そして世界へ
1 五五百歳二重説
2 軍服を脱いだ石原莞爾
3 国体を説く者が国体に反してゆく逆説
終 章 焼け跡に仏国土を!

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

HANA

64
日蓮主義というと「国柱会」というその名称や血盟団との関係、石原莞爾に与えた影響などから、漠然と戦前の国家主義を奉ずる一団体というイメージがあった。本書は田中智学がそれを唱えてから全盛期、軍部による弾圧から戦後に至るまでといった流れを詳しく解説し、その漠としたイメージに形を与えてくれた気がする。ただ全体的に日蓮主義の中でも様々な動きがある事は理解できたが、その主義故に戦前の国体と不離にあったのも事実。戦後それが解体されたことにより、その役割を終えたのかな。宗教とナショナリズムを考える上で面白い一冊でした。2022/12/06

ゲオルギオ・ハーン

24
『日蓮主義』という日蓮の考えを宗教だけでなく生活全てにも広げ、社会的には全体を統一する思想として展開していく様子を思想の中心人物の動向、社会の動きも関連させながら考察した一冊。石原莞爾、宮沢賢治、佐藤鉄太郎などの有名人物も関わっている。内容的に本田日召、高山樗牛、田中智学に紙幅を割いており、やはり日蓮宗とは異色なところが多いので日蓮主義と日蓮宗は似て非なるもの、と思いました。どちらかというと、全体主義思想に近いのかな。井上日召の血盟団事件によりテロリズムのレッテルが貼られると衰退していったそうです。2023/05/26

しんすけ

22
不思議なタイトルの本だと思う。 「なんだったのか」とするのは、現在では日蓮主義はもう存在しない、そう言うことなのだろうか。 日蓮宗を騙って法華経を汚すカルトは、まだ存在していると思えるのだが。 著者は、日蓮の真意をくみ取ろうとした時代が、かっては有ったと言いたかったのかもしれない。 しかし、本書を読むと日蓮主義とは狂人の雄たけびだったのでないかと思う。 田中智学から始まった八紘一宇の精神で世界統一を言うまでは良いのだが、それは日本の役割だと言い出し始めると当たり前の神経では付いていけなくなる。2022/11/11

さえきかずひこ

13
近代仏教運動としての日蓮主義の多様なあり方を田中智学、妹尾義郎、石原莞爾を中心としたテクストの考察を通して論じた、明晰な構成ときわめて平易な文体が特徴的な読みごたえのある研究書。西山茂、末木文美士、筒井清忠、原武史らの先行研究を豊富に参照し、現実の日本社会を維持強化する特殊主義的側面とそれを変革していこうとする普遍主義的側面が、日蓮主義の運動としてのダイナミズムを駆動していたことを浮き彫りにする。個人と信仰、そして近代日本のナショナリズムの関係について関心のある方にはとても刺激的な作品だと思います。ぜひ!2020/03/22

Toska

11
祭政一致、戦闘的な折伏志向、日本を中心とする世界統一のビジョン、独特の国体論等々、強烈だなあと思いながら読んでいたら、最後の最後で「日蓮主義は否定的にステレオタイプ化されてきたが、実は…」というような話が出てきたので吃驚。そんな趣旨だったの?日蓮主義についてはそもそも「通説」を云々できるほど一般に知られてもおらず、まずはそこから始めるべきなのでは。例えばウィキペディアで石原莞爾の項目を見ても、日蓮主義の影響はついでにしか触れられていない印象を受ける。2023/09/23

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