内容説明
生きる意味を探す元エリート少年の青春小説。
性悪な英語教師をブン殴って県下有数の名門進学校・I高を中退した17歳の斎木鮮は、中学時代の恋人だった幹とアパートで一緒に暮らし始める。幹もまた父親の分からない子を産んだばかりで女子高を退学していた。
さまざまな世間の不条理に翻弄されながらも肉体労働での達成感や人間関係の充足を得て徐々に人として成長していく鮮――。
幼少期に性的悪戯を受けた暗い過去や、母親との不和による傷に苦しみながらも鮮は一歩ずつ前へと歩みを進めるのだった。第4回三島由紀夫賞受賞作品で、解説を文芸評論家の池上冬樹氏が特別寄稿。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ユカ
5
労働って素晴らしい。トラウマを抱えていて、進学校を中退した、母親の愛情の薄い、主人公の人生を救っている。読後感かなり良し。さらりとした進行と労働の尊さに助けられた。2020/09/19
オールド・ボリシェビク
3
傲慢な教師を殴り、県内有数の進学高校を退学した主人公は、中学時代のガールフレンドとアパートで暮らし始める。彼女こ宇高を中退し、父親のわからない娘を産んだばかり。激しい肉体労働などを経験しながら、成長していく主人公を描いていく私小説。電設工事などの細かな描写には困惑するが、明るいタッチが通底しており、「挫折」の暗さを感じさせない。1991年、第4回三島由紀夫賞受賞作である。芦原すなおの「青春デンデケデケデケ」と争ったというのが面白い。2023/05/08
ペンギン
3
暗い過去や過酷な現状から高校をドロップアウトした主人公が荒波にもまれながらも労働を通じて自己を肯定するまでに至る物語。テーマ的には暗夜行路のように過去の小説にありがちに思えるが、爽やかな読後感を得られるのは文章の筆致のせいだろうか。若い2人を取り囲む周りの大人は利己的で欺瞞に溢れた人たちばかりだが、労働者の沢田さんという存在が救いとなっている。若い人にこそ読んでほしい1冊。2022/01/26