内容説明
イタリア統一、パリ・コミューン、ドレフュス事件、『シオン賢者の議定書』……すべてに関わるひとりの男がいたとしたら? 知の巨人が描く憎しみのメカニズム。ユダヤ人嫌いの祖父に育てられ、法学を学んだ青年、稀代の美食家シモーネ・シモニーニは、祖父の死後、ある公証人のもとで遺言書等の文書偽造の仕事を任されるようになる。陰謀渦巻く、混沌とした19世紀ヨーロッパを舞台に、偽造の腕を買われた彼は各国の秘密情報部との接点を持つようになり、その守備範囲は遺言書や証明書等の個人的な書類から政治的な文書へと広がっていく。そして、行き着いたのは史上最悪の偽書と言われる『シオン賢者の議定書』だった。捏造であることが判明した後も、ナチのホロコーストの根拠とされ、アラブ世界ではいまだに読まれつづけているというこの文書の陰に、シモーネ・シモニーニの存在が……。本書の登場人物中、彼以外はほぼ全員、実在の人物である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Kircheis
354
★★★☆☆ エーコのこれまでの作家活動の集大成のような作品だった。 失った記憶を取り戻す過程で過去の事実が描かれる手法は『女王ロアーナ〜』と同じだし、陰謀論が物語の核となっているのは『フーコーの振り子』を彷彿とさせる。偽書作成は『バウドリーノ』でも描かれていた。そもそも物語の形を借りて歴史的な出来事を独自解釈する手法は『薔薇の名前』以来ずっと共通していることである。 登場人物がほぼ実在の人物ということで歴史小説としての側面があるのだが、19世紀ヨーロッパの歴史に疎く、完全には楽しめなかったのが残念。2022/08/21
starbro
180
ウンベルト・エーコ、「薔薇の名前」に続いて、二作目です。19世紀末のパリ、プラハを舞台に秘密結社フリーメイソン、薔薇十字団、ユダヤ人陰謀説等と澁澤龍彦的な大変興味のある世界でした。著者が意図していることをどこまで理解しているかは別ですが、楽しみながら読了しました。しかし欧州人のユダヤ嫌いは相当根が深そうです。第二次大戦中はナチス以外も迫害していたとのこと。やはりユダヤ人がキリストを殺害したことを2000年以上経っても恨んでいるのでしょうか?ユダヤ人が本書を読んだら激怒するんでしょうね。2016/05/08
KAZOO
130
ある意味ピカレスク・ロマンということなのでしょうか?主人公の性格が面白く私には楽しめます。このような系譜の小説は「ラサリーリョ・デ・トルメス」あるいはパトリック・ジュースキントの「香水」などがありますがそれらよりも膨大な知識などを駆使している感じがします。教養小説的な意味合いがあるのかもしれません。図なども数多くおさめられていて、エーコの作品の中では一番すきかもしれません(最も読んでいるのは数冊ですが)。2018/01/24
マエダ
121
本書にはナチスに影響を与え、ホロコーストの引き金ともいわれる史上最悪の偽書「シオン賢者の議定書」が物語の中心にある。反ユダヤ主義の小悪党シモニーニの思考を読者に内側から体験させるのがこの本の特徴というように、反ユダヤ主義を体感できる。この物語で唯一の架空の人物がシモニーニだけというのも面白い。間違いなくおすすめの一冊。2016/07/02
どんぐり
120
何が面白くてこんな長大な物語を読むことになってしまったのか、もはや意地の読書。エーコという作家が書いていなければ途中で放り出していただろう。反ユダヤ主義の出版物「シオン賢者の議定書」に関わった架空の人物を主人公に据え、虚構と現実を交えて描いたフィクション。人種と宗教の憎悪に、フリーメイソンとカトリック(なかでもイエズス会)とユダヤ人の悪口が頻繁に出てくる。イタリア統一運動を推進したガリバルディ、フロイド、デュマ、ドストエフスキーなど歴史上の人物がいろいろと登場するが、西洋史を読み解くことができないと、この2016/10/07