内容説明
ひとつの家族には、ひとつの物語がある。何をするにも妻のことを最優先にする「甘次郎」と呼ばれる浪人の孫次郎。梶派剣術の使い手でもある彼は、ある日、多勢に無勢で追い込まれた武士を助太刀する。その縁から剣術指南として召し抱えられることになるが……。孫次郎の告白と、妻への思いを哀切を込めて綴った表題作「おもかげ抄」、流行の変化と職人気質の間に苦悩する男をあたたかく受け入れる家族を描く「ちゃん」、吝嗇家として町内でも噂される母親とその子ども達が必死になって働き続ける理由は……。本当の優しさとは何か、その問いに向き合い描かれた「かあちゃん」など、さまざまな家族の姿をとおし、それぞれの愛のかたちを浮かび上がらせる感動の七篇。
目次
ちゃん
花宵
女は同じ物語
おもかげ抄
あすなろう
夫婦の朝
かあちゃん
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
89
山本周五郎の「家族」を描いた7篇を選りすぐった短篇集。既読の作品も含まれいたが、いずれも秀作で面白い感動作でした。敢えてのイチ押しは【花宵】。武士の父亡きあと、女手ひとつで息子二人を立派に成人させた母子の物語。叱られるのは常に弟、兄だけを贔屓する母親。お家の跡継ぎの兄を重んじる〈長幼の序〉がその理由なのか?と弟は悩みます。最後に母の愛のムチを理解します。夫婦愛を描いた【夫婦の朝】は、とても心に沁みる作品です。【ちゃん】【女は同じ物語】は再読ですが、じんと熱いものが込みあげてきました。お薦めの一冊です。2021/02/11
KEI
36
読友さんからのプレゼント本。家族にまつわる人情話の短編7編。どの作品も甲乙つけたいが、一押しは【花宵】夫亡き後、長男を重んじる母に不条理さを覚える弟は、ちょっと耳にした「継子」と言う言葉に自分は貰い子だと思い込み兄に嫉妬するが本当の母の気持ちに気付く。【女は同じ物語】女嫌いの息子に侍女をあてがって、その侍女を好きにさせ、許嫁との婚礼を進めようとする母の思惑に気がつき大円団。【かあちゃん】貧しさに耐えケチと言われながら牢獄から出て来た友を助ける。どれも読み心地の良い話だった。2021/06/03
ひさか
22
週刊朝日別冊1955年2月:ちゃん、少女の友1942年4月号:花宵、講談倶楽部1955年1月号:女は同じ物語、キング1937年7月号:おもかげ抄、小説新潮1960年8,9月号:あすなろう、婦人倶楽部1941年3月号:夫婦の朝、1955年7月号オール讀物:かあちゃん、の7つの短編を2019年7月講談社文庫刊。ちゃん、かあちゃん以外が初読み(読んだけど忘れている?)で、いずれも山本さんらしい人情味豊かな話ばかりで良かった。2023/09/24
山内正
6
別にどこが悪いで無く気儘者でして 孫次郎は城下で噂が広まった 隠居六兵衛が手習いの話を持ち掛け お師匠斬り合いがあそこで 子供が呼び一人を五人が囲んでた 三人を打ち老侍が馬で駆け寄る 沖田家へ稽古に半月になる 士官の誘いを持ち出されて帰る 仏壇に菓子を供え椙江そなたの好きな菓子だ士官の話も 今になって叶うとは死んだ後で 六兵衛にこの地を離れると詫びを 街道で旅姿の女が待っていた 小房殿、いいえ椙江ですと手紙を 我が娘を思わしい人の再生とお連れ下され、心が変わりましたら是非 立寄りを 小房殿行かれますか 2021/04/29
山内正
5
貰えば同じようなものだ 父親城代家老が言う母は侍女を付けると反対だとでもあなた 名を紀伊と言います八月話をする様になる俺は只、只あの娘が 着換えの時紀伊が泣き出す 縁談相手は嫌だ俺は紀伊がいい 来てくれるか 翌日紀伊はお暇を取りましたと母が 置手紙にきっと戻りますと 式を挙げ横に花嫁が綿帽子を被り やがて宴は終わり寝間へ行く 言う戻るのだ紀伊 花嫁が座ってた 堪忍して下さい 紀伊が居る お側に使え気に入らなければ諦める積もりでした 母上もご存知です 紀伊は嬉しゅう御座います2021/03/01