内容説明
1888年にドイツ皇帝として即位したヴィルヘルム2世(1859~1941)。統一の英雄「鉄血宰相」ビスマルクを罷免し、自ら国を率いた皇帝は、海軍力を増強し英仏露と対立、第一次世界大戦勃発の主要因をつくった。1918年、敗戦とともにドイツ革命が起きるとオランダへ亡命、その地で没する。統一国民国家の草創期、ふたつの世界大戦という激動の時代とともに歩んだ、最後のドイツ皇帝の実像。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Nat
48
図書館本。以前プロイセンからドイツ帝国の歴史の本を読んだが、イマイチピンとこないドイツ帝国。その最後の皇帝の本があったので、何の気無しに借りてみた。読んでみたら意外な面白さ。母との関係からイギリスに対して複雑な感情をもち、時代錯誤の絶対君主という理念しかもっていなかった。立憲君主制が近代社会で君主が生き延びる唯一の術だったのに、それを理解できなかった人物だった。第一次世界大戦に突き進んでいったヨーロッパの状況が、よくわかった。2021/02/24
trazom
36
この本は面白い。ヴィルヘルム2世は、ビスマルクを罷免し親政を目指すも、薄弱な意思と浅薄な思考力から英仏露と対立し、第一次世界大戦の誘因ともなったお騒がせ皇帝であるが、この本では、ヴィルヘルムの人物像、当時のヨーロッパの政治力学、そして、ドイツ帝国という特異な存在が、実に鮮やかに解説されている。著者の竹中先生は、長年の研究でヴィルヘルム2世を「旧友」と書いているが、その熱い思い入れが滲み出た表現力豊かな文章だから、読んでいて楽しく心揺さぶられる。学者にしておくのが勿体ないような(??)素晴らしい文章である。2018/10/11
skunk_c
36
軽快なタッチで辛らつな言葉を交えながら語られる評伝。「決して友達になりたくないタイプ」と言いながら、著者はこの人物にけっこう愛着があるように感じた。一種の「見栄っ張り」な性格の持ち主が、一見絶対的(でもその実はそれほどでもない)権力を握っての振る舞いは、周辺の登場人物も含め、辛らつに批判されてはいるが、どこか生々しい。ある意味究極の「お坊ちゃま」なわけで、自らの言動に責任が伴うことに対する驚くほどの無自覚は、現代の日本の政治家にも通じるかも。彼の統治期のドイツ・ヨーロッパ史としても面白く読めた。2018/06/07
Toska
27
再読。まず暗君と評して間違いのない人物だが、当時はドイツそのものがイケイケで調子に乗っていた上、大衆社会の時代に入りつつあった事実が彼をよりいっそう悪目立ちさせることになった。ヴィルヘルムの奇矯な人柄だけで説明するのではなく、そうした時代背景を上手く織り込んだ良書。現代人なら誰もが思い浮かべるであろう「ポピュリズム」という言葉を安易に使っていない点にも好感が持てる。2023/01/13
異世界西郷さん
27
統一して以降、近代化による隆盛を極めるドイツと共に在り、そして第一次世界大戦の敗戦により祖国から逃げ出した皇帝ヴィルヘルム2世。彼の一生とはどのようなものだったのか。その実像に迫る一冊。「俺達のカイザーヴィルヘルムが新書になった! 」ことに居ても立ってもいられず読んでみました。何というか、読んでみて思ったのは、ヴィルヘルム2世は、既に何者かであるにも関わらず何者かになりたがり、結局何者にもなれなかった人なのではないかということでした。2018/08/07