内容説明
散策の途上で出合った少女が美しく解剖されるまでを素描する「天使解体」、白痴の姉とその弟が企てる祖父殺し「サイレン」、陵辱された書家の女弟子の屍体が語る「玄い森の底から」等、妖美と戦慄が彩る幻想小説や、兎派と犬派に分かれた住民たちの仁義なき闘争を綴る「聖戦の記録」の黒い笑い、失われた女の片脚を巡る「脛骨」の郷愁、ゴッホの絵画を再現した園に溺れゆく男たちの物語「ドービニィの庭で」の技巧等々。文体を極限まで磨き上げた十五の精華を収める。孤高の鬼才による短篇小説の精髄。※紙書籍版とはカバー画像が異なります。/【収録作】「天使解体」/「サイレン」/「夜のジャミラ」/「赤假面傳」/「玄い森の底から」/「アクアポリス」/「脛骨」/「聖戦の記録」/「黄昏抜歯」/「約束」/「安珠の水」/「アルバトロス」/「古傷と太陽」/「ドービニィの庭で」/「隣のマキノさん」/解説=石堂 藍
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Bugsy Malone
81
忙しい日常生活の垣間、小説や映画での物語に触れ、異世界を夢想する。冒頭の「少女解体」、文体故か、異常な状況を異常と感じず、あまりにもすんなりと受け入れてしまう。続く短編群もまた、官能や哀切、頽廃と死臭にまみれた幻惑かつ蠱惑な物語ばかり。そこからまた夢想する。堪らない...2021/04/03
カナン
60
前衛的でありながら端正な文体で一気に読者を引き摺り込む15篇。悍ましい解体作業を芸術へ昇華した「天使解体」から、後ろめたくも官能的で、美しく狂った夢が万華鏡のようにくるくると視覚から私の脳を犯していく。優しい悪魔の囁きに抗えないのなら、気が触れて戻れなくなるまで口付けて、理性が溶け落ちて達した瞬間にこの頭を割って真っ白な前頭骨を撫でて、臓腑を引き摺り毟り取って。真っ赤な柔らかさと温みを愉しんだらそのまま捨て置いて。腐り塵となり消失するその瞬間まで、私は恍惚とした熱を孕んだまま貴方のその脳を愛でるでしょう。2020/10/26
瑞佳
55
もしかして、わたしの方が狂ってる?あまりにグロテスクであまりに不条理で奇妙で悪夢的で、でも端正で清冽で月の雫のようにしとしとと美しい文章に「もしかしてこっちの世界の方が正しいのかしら」と錯覚しそうになるし。ああ、キケン。背中もお尻もこそばゆくなる不安定なぞわぞわ感。深く覗きこむと連れていかれそうだ。無垢と残酷が優しく同居する、津原さんは恐い作家さんやと思う。頭の中が砕かれないようにちょっとずつちょっとずつ読む。でないと艶やかに解体された少女の姿に見とれてしまいそうになるもの。2017/05/05
モルク
47
初読み作家さんです。エログロ、ホラー…色とりどりの絵画を次々と見るような、次々と現れるめくるめく世界に堪能。次第に自分も狂っている?という世界に足を踏み入れてしまう。「天使解体」「脛骨「古傷と太陽」が好き。」2017/06/04
さくりや
41
どうしてもっとはやく出会っていなかったんだろう。語彙力と文章力の鬼すぎる……。グロテスクだけれど華美ではなく深遠を覗きたくなるような美しさ。目まぐるしく変化する文体。改行が少なくみつしり(あえてこう書きたい)とした頁。全編を通して死と性のモチーフがアンニュイだわ。「天使解体」「玄い森の底から」「アルバトロス」「ドービニィの庭で」が特にお気に入り。2019/11/02
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