内容説明
男女の愛、自然との交感、神々への祈り――生きる喜びと哀しみを歌い、日本人の心の原型を刻む古典『万葉集』。新元号「令和」の典拠として改めて注目を集める歌集の世界を、国文学研究の第一人者が解き明かす。「愛と死」など十のテーマで万葉びとの生きた時代へいざない、歌の楽しみをガイドする。やさしく格調高い文章で綴られた『万葉集』入門の決定版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ひよピパパ
13
万葉集研究の大家・中西先生が『万葉集』の魅力をザックリと解き明かしてくれる。このたび文庫化されたことで手に入りやすくなった。本書は構造的に工夫されている。冒頭で『万葉集』全体の概要を述べ、その後、歌われた風土や時代、歌い人の階層や歌われた場などについてそれぞれ歌の例を示しながら説明される。そして全体としてその美を説き、その美の永遠性を述べてまとめられている。『万葉集』入門書として格好の一書。「おもふ」『古今集』に対して『万葉集』は「こふ」。内省的ではなく直情的に表現されるのが万葉集の歌の魅力と言えようか。2021/08/07
あいくん
10
☆☆☆☆1972年に書かれていた本を2019年に文庫化した本です。1929年生まれの中西進さんが43歳の時に書いた著作を90歳で文庫化したというわけです。気軽に読めて全体として万葉集がわかるように心がけて書いたということです。万葉集と深く関わってきた中西さんは、学生の頃は大伴家持が好きだったと言うことです。その後、柿本人麻呂、山上憶良、高橋虫麻呂に弾かれたりもしたそうです。万葉集の歌は凝った技巧や複雑な表現はありません。単純で素直です。人間の真実の一点だけを言い表しています。2020/02/11
りん
4
さまざまな歌を通して、万葉の時代の人々が何に喜び、何に悲しみ生きたか。万葉人の心有り様を比較的平易な表現で綴られていて読みやすかった。東歌への関心が強まった。次はもう少し詳しい解説本にチャレンジしようかな。2019/07/13
Tai
4
萬葉集を読み始めたが、ぼんやりと言葉が綺麗だなくらいしか入ってこないので、道しるべとして手にした。 ひらがなはまだなく音を合わせて当て字で歌が書かれていた時代、神話の世界がほんのわずか前まで続いていた時代、大陸からの知識を盛んに吸収しようとしていた時代、自然の描写の美しさ、人々の感情の豊かさ、東国の文化、末端の人々の間に伝承される歌、などなど奥深さを垣間見る。初めの一歩として良かった。 19/8/18情熱大陸:人の生きる力が求められる時代に流行る。 中西さん終戦記念日の一句、人を焼き/日月爛れて/戦熄む2019/06/29
波 環
3
いまとなっては、大学者となってしまった筆者の50年近く前の著作。万葉集が一般的に愛され現代でも古典とされるようになったのは、作品の普遍性はさることながら、中西自身の美しい助詞遣いや精錬が形容詞の選択による著作で多くの人が万葉集の世界に触れたことが多かろう。ネットスラングに疲れると、句読点の隅々まで美しい隙のない日本文を求めてしまう。2019/11/05